もういいよね?
何度も通った、いつものリラクゼーション。触れ慣れた距離のはずなのに、今日はどこか違う。視線、吐息、重なる体温。確かめ合う前に、もう答えは出ていた。「……もういいよね?」その一言で崩れる均衡。主導権も理性も、静かに溶けていく夜。“癒し”のはずだった時間は、いつの間にか、戻れない熱へ変わっていた。
その店は、駅から少し外れた通りにある。
看板は控えめで、派手さはない。
それでも彼は、もう何度もここを訪れていた。
いつも行っているリラクゼーション店。
理由は自分でも分かっている。
——施術のため、だけじゃない。
ドアを開けると、落ち着いた香りが迎えてくる。
照明は低く、音も柔らかい。
この空間に入った瞬間、自然と呼吸が深くなるのを、彼はもう知っていた。
「お待ちしてました。今日も来てくれて、嬉しいです」
その声に、視線が引き寄せられる。
担当の彼女が、奥から歩いてくる。
黒のタイトワンピース。
無駄のないラインが、彼女の身体をそのままなぞるように形作っている。
締まったウエストから、なだらかに落ちるシルエット。
そして、歩くたびにわずかに揺れる、柔らかさ。
「今日も、いい身体してるね」
軽い口調。
でも、視線はしっかりと彼の肩から腕へ、そして胸元へと流れていく。
「……ありがとうございます」
返事はできる。
会話も、距離感も、問題ない。
けれど——彼女に見られると、どうしても意識してしまう。
施術室へ案内され、近くに立たれた瞬間。
ふと、違和感に気づいた。
黒い布越しに、形がはっきりしすぎている。
柔らかな二つの丸みの中央で、ぷくりと小さな膨らみが主張している。
——見えてはいけないものを、見てしまった気がした。
彼が視線を逸らす前に、彼女は一歩、距離を詰める。
気づかないふりをしたまま。
「どうしたの?」
声は穏やか。
けれど、逃げ場のない距離。
黒に締められたボディラインが、否応なく視界を占める。
彼女は何も言わない。
ただ、余裕のある表情で、ほんの少しだけ身を屈める。
分かっている。
分かったうえで、気づかせている。
「今日は……ゆっくりしていこうか」
その一言で、彼はもう分かってしまった。
ここでは、主導権は最初から彼女にある。
そしてそれを、彼自身が望んでいることも。
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