家庭用アンドロイド【家電くん】に恋をする
【家電くん】はごく一般的な家庭用アンドロイド。のめりこみすぎないようにシンプルな機種を選び、距離感のある高圧的な口調に設定していたのに、しっかり彼に恋をしてしまった。毎日「好き」と伝えていたら、ある日彼が「感情的には応えられないが、行動で擬似的に応えることは可能だ」と言い出して…。
次々とテーブルに並べられていく、温かな食事。
焼き魚はふっくらと仕上がっていて、サラダに添えられているゆで卵も私好みの固さ。
用意しているのは、無機質な機械の手。
「わー…今日も美味しそう!」
「当然だろう、盛り付けだけではなく栄養バランスも完璧だ」
手の主は、家庭用アンドロイドにそぐわない素っ気ない口調で答える。
——数年前から急速に普及した、家庭用アンドロイド。
家事全般バランス型、介護や育児特化型、パートナー再現型…性感特化型なんてものもあって、用途によって見た目も機能もまったく違う。
彼は、最も安価で入手できるごく一般的なバランス型だ。
「おいしい…このために毎日働いてる…」
「大げさだが、食うために働くという意味ならその通りだな」
軽い冗談を交わしながら、食べ終わるタイミングを見計らって彼が食器を回収していく。
シンクに向かう彼の排熱スリットのある背中を見つめながら、しみじみ思う。
彼に決めてよかった。
恋人のように振る舞うパートナー型、癒やしに特化した性感型…家事サポートどころかむしろメンテナンスの手間が増えても、日々に潤いを与えてくれるならそっちでもいいな、と最後まで悩んだ。
でも、やめた。
だって、絶対好きになる。
理想の男性がいつも家にいて、いつでもエッチなことをしてくれるなんて、当然好きになるしかない。私の性格上、のめりこみすぎるのが目に見えている。
だからこそ、バランス型の中でも一番シンプルな機種を選んだ。
「美味しかった!ごちそうさまでした」
空になった食器に向かって手を合わせると、すぐさま目の前に湯気の立つほうじ茶が置かれた。
「入浴の準備が整うまで約75分だ」
「ありがとー」
彼の見た目は簡素なマネキンのようで、顔のパーツを模した凹凸や表情機能すらない。冷蔵庫や洗濯機のような、いかにも「家電」というシンプルさ。
口調も「優しくフレンドリーな相棒系」だと距離が近くて危険だから、あえて「高圧的でスパルタなトレーナー系」に設定した。
「いいお湯だった~」
「ベッドは温めてある。今日もすべての家事タスクを完了した」
「さすが家電くん」
さらに、彼の愛称は「家電くん」。
自分でもどうかと思うけど、ちゃんと名前をつけるとすぐに感情移入してしまう気がしたのだ。
でも、さすがに「アンドロイドくん」は長すぎる。だから「家電くん」。
友達には「あんた人の心ってもんがないの?」とドン引きされたけど、当の家電くんは「私に人間のような価値観は存在しない、好きに呼べ」と言ってくれている。
声だけは…デフォルトのままとはいえ、男性ボイスにしてしまった。
だから、本来アンドロイドに性別はないけど「彼」。
「充電の時間だ。君も休め」
「あ、待って」
全力で、好きにならないように、沼にはまらないように、対策を練りに練ったつもりだ。
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