家庭用アンドロイド【家電くん】に恋をする (Page 2)

「なんだ」

振り返る白い背中に向かって、勢いのまま口を開く。

「家電くん、大好きっ」

——はい、無駄でした。

対策が裏目に出てむしろ新しい扉を開いてしまい、しっかり家電くんに恋をしてしまった。

「またそれか」

このやり取りも、もう何度目かわからない。

「好意を寄せられたところで、応えることはできない。無駄な期待はしないことだ」

「だって、好きだから好きって言いたいんだもん」

家電くんは基本的に塩対応だ。でも、この流れがなんとも楽しい。

普段はアンドロイド然とした彼の中にどこか感情のようなものが感じられて、フラれているのに妙に嬉しくなってしまう。

「感情をぶつけること自体が目的なのか?」

「うん!」

ほら、困ったように固まってしまうのも可愛い。

想定されていないコミュニケーションにどう対応するか考えているだけだろうけど。

一切の表情も感情もないはずなのに、彼が可愛くてたまらない。

普段だったら「そういうのは私の役割ではない」と冷たくあしらわれて終わるのがお決まりの流れ。

…だけど、今日は違った。

「…感情的に応えることは倫理的にも機能的にも不可能だが、行動で擬似的に応えることは可能かもしれないな」

「えっ」

予想外の返答に、こっちが固まってしまう。

「えーと…それは、どういうこと…?」

「私のできる範囲で『恋人らしい行為』を一時的に再現するということだ」

「じゃあ、例えばデートとか…!?」

「外出は歩行用ユニットがないと難しいが、すぐにできることといえば、そうだな…」

家電くんのまっさらな白い顔に「Searching…」という文字が青く光る。

「キス…は、口がないから不可能。ハグ…もしくは、愛撫」

「あいっ!?」

「手淫のみになるがな。陰茎にあたるパーツが存在しないからセックスはできない」

「セッ…ちょっ、待って…」

情報量が多い。

無垢だと思っていた好きな人の口から、いや人でもないし口もないけど、とにかく卑猥な言葉が次々に飛び出してくる。

「どうする?私は愛撫を推奨する。手軽なのはハグだが、私の硬い体では満足感を得られない可能性が高い」

「え、え、え…」

てっきりデートとか手を繋ぐとか、そういう方向だと思ったのに。

とんでもないことをリサーチさせてしまった。

「言っておくが、私に感情なんてものはない。したとしてもそうでなくても私は変わらない」

狼狽える私に家電くんは平然と言ってのける。

それが悔しくて、ムキになって、勢いだけで返事をしてしまった。

「…じゃ、する!」

彼から聞こえるモーター音が、一瞬だけ大きくなった。

「今日は魚を調理したからカバーを取り替える。寝室で待て」

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