いわく付きホテルでの体験談(Aさん・〇歳)

・作

私が出張先で、いわく付きのホテルに泊まったときの話です。静かすぎる部屋の空気を不気味に感じながらも「大丈夫」と自分に言い聞かせて布団に潜り込みました。すると真夜中、布団の中で金縛りにあった私の体を無数の手が登ってきたのです。※ホラー要素が含まれています。苦手な方はご注意ください。

——ちょうど1年前、とあるいわく付きホテルに泊まったときの話です。

外部の研修会に参加するため出張だったのですが、手違いがあってホテルが予約できていなかったんです。

それに気がついたのは出張の2日前。慌ててビジネスホテルを探しましたが、どこも満室か予算オーバーでした。

そんな中で唯一、手頃な価格で予約できたのがあのホテルだったんです。

そして、そのホテルで——研修会を控えた夜、あの出来事が起こりました。

*****

「せっま…」

ドアを開けると、ベッドの横にサイドテーブル、壁かけのハンガーがふたつだけ。

クローゼットもなく、1泊分の荷物を置くと部屋がいっぱいになるほどの狭さ。

ユニットバスのシャワーの出も悪いし、エアコンの効きも悪い。

間違いなく大ハズレのホテルでした。

「ああ…やっぱりやめとけばよかった…」

最悪カプセルホテルでもいいけど、せっかくなら気を使わずに個室でゆっくり休みたい!

…そう思った過去の自分を恨みます。

でも、広さより設備より何よりもそのホテルは——「出る」と言われてるのです。

予約を取ってしまったあとになんとなく口コミを調べると、それ系の噂が出てくる出てくる。

もちろん、キャンセルすることも頭を過ぎりました。

しかし、霊感というものが皆無で、生まれてこのかた心霊体験なんてしたことがなかった私は「大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせて当日を迎えてしまったのです。

「…大丈夫じゃないかも…」

シャワーを浴びたあと、ベッドに置いてあったゴワゴワとしたガウンに着替えました。

隣の部屋も廊下も不気味なくらい静かで、あまりにシンとしすぎた空気が余計に不安を煽ります。

私はそれをごまかすように、眠たくなるまでドラマ配信を観て過ごしました。

「ふわぁ…」

そのうちに瞼が重くなり、ドラマの内容が頭に入ってこなくなりました。

ちょうどキリのいいところだったので、サイドテーブルのライトを消して布団に潜り込みました。

明日は少し早く起きてゆっくり準備をして、駅前のカフェで軽く食べてから会場に向かおう。

そう考えているうちに、いつの間にか眠りについていました。

そして、真夜中に——【彼】が来たのです。

(なんだろう…苦しい…)

仰向けの体勢でふと寝苦しさに目を覚ました私は、すぐに異常な事態に気が付きました。

(え…体…動かない…)

寝返りを打とうとしても、指1本動きません。

動くのは、目だけ。

——金縛りだ、と直感しました。

人生初めての金縛りにパニックになって、叫ぼうとしても声が出ません。

(え、やだ、やだ、うそ!)

そのときでした。

なにか生温かいものが、布団の中で足先に触れたのです。

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