アイドル〜after show〜
華やかなライブの夜。祝杯の代わりに選ばれたのは高級ホテルの一室。称賛と視線と沈黙が絡み合い、ステージの熱が冷めないまま三人は光と闇の境界を踏み越えていく。幕が下りた後に始まるもう一つの物語
「今日のライブ、よかったよね?!」
後部座席から弾む声が飛んできて、運転席の悠真はルームミラー越しに一瞬だけ目を上げた。
「……ああ。会場の空気、ちゃんと掴めてた」
助手席のルカが、くすっと笑う。
「ほら、天音。褒められてるよ」
「ち、違うし。別に……普通」
そう言いながらも、天音は窓に映る自分の顔を一瞬だけ確かめて、すぐに視線を逸らした。
ライブ後特有の熱が、まだ身体の奥に残っている。
この三人で車に乗るのは、今日が初めてじゃない。
ルカと天音は同じグループで活動するメンバー。
そして悠真は、仕事として二人を支えながら、いつの間にか“一線”を越えた距離に立っている存在だった。
表向きは、信頼できるマネージャー。
プライベートでは、ルカの恋人。
けれどその関係を、天音だけは知らない。
天音にとって悠真は、少し近くて、少し遠い大人だった。
言葉数は少ないのに、要点だけを正確に拾う目。
必要以上に踏み込まないくせに、気づけば一番近くにいる人。
その視線を、今日のステージの上でも、天音は何度か感じていた。
「でもさ」
ルカが、そこでわざと空気を切り替えるように声を出す。
「今日の天音、ちょっと違ったよね。目、ずっと前見てた」
「……それは」
天音が言いかけて、言葉を切る。
悠真はハンドルから視線を外さないまま、短く息を吐いた。
「……成長してるってことだろ」
それだけ。
余計な言葉は足さない。
その一言で、天音の胸が小さく跳ねたのを、ルカだけが見逃さなかった。
「ねえ、悠真」
ルカは声のトーンを少し落とす。
「今日さ、このまま帰るのもったいなくない?」
沈黙。
信号待ちで、車内が一瞬だけ静かになる。
「……ホテル、押さえてある」
さらっと言われたその言葉に、天音が驚いて顔を上げた。
「え?」
「……ライブ成功祝い。反省会も兼ねて」
理由は整っている。
でも、その“間”が、ただの業務じゃないことを滲ませていた。
ルカは口角を上げる。
「さすが。話が早い」
天音は何も言えず、ただシートの上で指先を握った。
(……この夜、長くなる)
そう思った瞬間、車は静かにホテルの方向へとウインカーを出した。
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