手の平で転がそうと思って大人しい幼馴染の家に上がり込んだ結果、私の方が組み敷かれてしまい…。
いつも家の前を通り過ぎる幼馴染。そんなある日、父から幼馴染の自宅に荷物を届けるように頼まれる。私は幼馴染に声をかける理由を見つけてほんの少しだけ気分が高揚した。最初はただの好奇心だった。それからは何かにつけて幼馴染の家に上がり込む関係になったが、幼馴染には同じ大学に通う彼女がいた。私は幼馴染の気を引くために挑発し始めたけれど…。
私の名前は彩加、大学教授の父と2人暮らし。
真面目な父とは似ても似つかず、私は自宅で家事手伝いをしている。
元々、父は資産家で生活には困っていない。
そのため父は私に学業や社会に出ることを強要することはない。
さらに結婚についても聞いてくることは一切ない。
それは母が早くになくなったことが関係しているのだろう。
「彩加、幼馴染の孝太郎くんを覚えているか?今度、私の講義を受けるそうなんだよ」
「覚えているわよ、あの劣等生でしょう。頭がよかった記憶はないけど努力家なのね」
私の幼馴染の孝太郎は劣等生。
私よりも成績がよかったことなんて1度もない。
「大学ではかなり評判のいい真面目な生徒らしい。人は変わるとは本当だな」
少しだけ父の発言が胸に突き刺さる。
私は中高までは成績優秀で周りに一目置かれる存在だった。
孝太郎からしてみたら、私は高嶺の花的存在だっただろう。
大学受験に失敗してからは、周囲の目が怖くなってしまった。
「本当にその通りよね。人生って簡単に逆転してしまうものなんだわ」
私のようすに気がついた父は気まずそうに顔を背ける。
父の優しさが私をさらにダメにしていることには気がついていた。
しかし元から父の女性に対する思想は偏っており、今の私の方が理想の娘。
そんな父が大学では女性の社会進出について語っているのだから驚きだ。
「私は平凡な幸せをパパが与えてくれているから幸せよ。毎日、退屈すぎるけどね」
やっと父に笑顔が戻る。
私は思いっきり父の遺産と財力に甘えようと考えていた。
こんなに退屈なら、少しくらい火遊びをしても問題はないはずだ。
「それならこの荷物を孝太郎くんの家に届けてくれないか?実は孝太郎くんのお父さんから荷物を預かってしまっていたんだよ」
私は満面の笑みを浮かべて父の頼みを受け入れた。
*****
それから数日後、私は孝太郎の家を訪ねる。
わざわざ重い荷物を自力で運んできた理由。
この日、孝太郎の両親は確実に自宅を空けているからだ。
玄関のドアを開けた孝太郎は私を見た途端、唖然とした表情を浮かべる。
「久しぶり、高校卒業以来じゃない?」
相変わらずあか抜けない黒髪のショートボブ。
自信なさ気に目線を逸らす姿がいかにも陰キャといった雰囲気。
「彩加…」
孝太郎に名前を呼ばれるなんて小学生以来。
たどたどしいようすに私の心はかつてないくらい弾んでいた。
「お父さんが孝太郎の家に荷物を届けて欲しいっていうから来たの」
両手に抱えた段ボールを見せつけて孝太郎の横を通り過ぎる。
これで孝太郎の家にさり気なく侵入するというミッションはクリアできた。
私は今でも鮮明に覚えている。
最後に孝太郎の家にお邪魔したのは中学生の頃だった。
あの頃は絶対に孝太郎に興味を持つことなんてないと思っていた。
勉強のストレスの捌け口として孝太郎に八つ当たりを繰り返す。
今、思い返してみると私は孝太郎に対してはかなりのドSだったといえる。
「荷物って父さんは彩加の父さんに何を借りていたんだろう」
「私も中身は分からないけど、ちゃんと届けたんだから感謝してよね。それとお茶くらい出してくれる?結構な距離があったから疲れちゃった」
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