紅蓮の薔薇は夜に咲く ―背徳の双鎖― (Page 4)
「セリア様……お休みの時間を過ぎておられます」
扉越しに聞こえたのは、ジョゼの声だった。
柔らかいのに、どこか怒りを孕んだ音。
アシュレイは唇を動かしながら、低く囁いた。
「お嬢様は今、私の所有下にあります。
“忠犬”は、寝床に戻るよう躾けておきなさい」
扉の向こうの沈黙。
そして、セリアの瞳に浮かぶ、もう一人の影。
ジョゼの声も手も、まだ身体に残っている。
アシュレイの舌が触れている場所に、ふとジョゼの手の感触が重なった気がした。
本当はまだ彼に触れられてなどいないのに――身体の奥が、記憶のように疼いた。
セリアは自分がいま、
ふたりの愛に同時に囚われていることを、
自分の“熱”が一番よく知っていた。
アシュレイが唇を離し、セリアを抱き上げる。
「……ふたりの男を思い浮かべながら、感じている顔ですね」
「ちが……」
「いいえ。よろしいのです。お嬢様はどちらにも堕ちるべきだ」
そして、ベッドに倒された身体に、彼の熱が押し当てられる――
アシュレイは微笑しながら、セリアの耳元で囁いた。
「忠犬は、扉の前で吠えることしかできないのです」
「……セリア様、それでも、俺はあなたを……諦められません」
アシュレイはセリアに問いかける。
「お選びになりますか?」
セリアは首を振った。
そのときジョゼは胸元から、ひとつの小さな銀の指輪を取り出した。
それは彼が騎士見習いの証として身につけていたもの――だが今は、ひとりの女へ捧げる誓いの印だった。
「これは、俺のすべてです。
あなたがどんな選択をしても、俺の心は変わらない」
指先にそっと押し込まれたその指輪は、まだほんのりと彼の体温を残していた。
セリアは黙って、それを受け取った。
「私はどちらも、欲しいの。
どちらの愛にも、……身体が応えてしまうの」
セリアが「どちらも欲しい」と囁いたとき、
アシュレイはしばらく彼女の瞳を見つめていた。
そして静かに立ち上がると、執務机の引き出しから鍵を取り出し、
静かに、そして意味深に――扉の鍵を外した。
扉の向こうに立っていたジョゼと、目が合う。
アシュレイは少しだけ口元をゆがめて、言った。
「ならば、お嬢様にお選びいただきましょう。
忠犬を招き入れるか、主のもとにとどまるか」
セリアは一瞬、息を飲んだ。
ふたりの男が、それぞれ違う愛の形で彼女を見つめている。
「……選ばない」
震える声が、灯火の下で確かに響いた。
「私は、どちらかだけなんて、もう選べない……」
その言葉に、アシュレイは微笑んだ。
そして扉の前に立ったままのジョゼに向かって、手を差し伸べる。
「ご入室を。……お嬢様の望みです」
そして始まる――
ふたりの男と、選ばれなかった“夜”。
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