紅蓮の薔薇は夜に咲く ―背徳の双鎖―
雨の夜、交差するふたつの執愛。支配か、献身か――揺れるお嬢様の心と身体に、静かに熱が灯る。主従を超えた関係の果てに見つけたのは、禁断で、甘く、抗えない悦び。濃密な愛と欲望が絡み合う、異世界官能ロマンス。
その夜、セリアは眠れなかった。
窓の外では冷たい雨が、石造りの庭を静かに叩いている。
しっとりと湿った空気に、どこか懐かしい薬草の匂いが混じっていた。
──あれは、アシュレイが置いていった香。
数日前の夜、主と執事の関係を越えてしまったあの一夜。
唇を塞がれ、肌をくすぐる指先に、何度も呼吸を乱された。
自分でも知らなかった熱を知り、
そして彼の低く響く声が、いまも耳の奥に残っている。
「お嬢様の身体は、私だけが知っていればよいのです」
その言葉を思い出すたび、胸の奥がかすかに疼く。
そのとき、扉が控えめにノックされた。
「セリア様、お久しぶりです」
声の主は、ジョゼだった。
数年前、セリアが旅先で命を助けた青年。
今や背も伸び、褐色の肌、鍛えられた身体、胸元には騎士見習いの紋章が光っていた。
「まさかあなたがこの屋敷に来るなんて……」
「はい。あのときのご恩を、お返ししたくて。どうか、この命、あなたのお足元に」
ドアの向こうで氷のように冷たい声がした。
「セリア様の隣に立つ者は、ひとりでいい。
……そして、その座は、他の誰にも譲るつもりはありません」
アシュレイだった。
「忠犬には忠犬の役目がございますので」
ジョゼの返しに、空気がほんのわずかに張り詰めた。
だがセリアは、ふたりの視線を感じながらも、何も言わなかった。
それぞれ違う温度の愛に、身体の芯が熱を帯びていくのを感じていたから。
その夜。
ジョゼは薬草の知識を活かし、眠れぬセリアのために特別な香を調合した。
窓辺に置かれた小瓶から、すっと甘い香りが立ちのぼる。
「お嬢様には、香よりも効果的な“お仕置き”の方が、お似合いですから」
アシュレイの声は、夜の帳より冷たく、そして艶を帯びていた。
セリアはその言葉に、思わず胸の奥がざわつくのを感じた。
忠実な犬と、支配する執事。
その間で揺れる自分を、セリアはどうしようもなく女として意識していた。
蝋燭の明かりが揺れる部屋で、セリアは眠れずにいた。
窓の外の雨は弱まっていたが、胸のざわめきは収まる気配を見せなかった。
──アシュレイの声。
──ジョゼの眼差し。
どちらも違う色の愛。
けれど、どちらも身体の奥に残っている。
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