憧れの執事様との念願初えっちはねちっこかった
社長令嬢の城ヶ崎月乃(じょうがさきつきの)は、自分の専属執事・杜野聖人(もりのまさと)に絶賛片思い中。自分のことを主人か妹分としか見てくれない聖人に初恋を拗らせた月乃は、ついに二十歳になったある日、聖人に「顔も知らない誰かに嫁がされる前に、抱いてほしい」と頼み込む。すると、聖人の様子が急変して…!?
聖人が私に付いたのは、私が小学生の頃だ。
「本日より月乃様のお世話をさせていただきます、杜野と申します」
クラスの女の子たちが騒ぐようなアイドル、というよりは海外のモデルさんといった雰囲気のきれいな顔で挨拶をした聖人は、私よりちょうど十歳上だった。
物腰が柔らかく、どんなワガママにも困ったように柔らかく笑う大人の聖人に、小学生の女の子が恋をするまでに、そう時間がかかるはずもない。
同い年の男の子とは全く違う、穏やかで、きれいで、悪いことをしたらそっとたしなめてくれる。
そんな聖人に、私は二十歳になった今も変わらずに恋をしていた。
私がねだり倒したので、二人きりのときにはこっそりと「月乃ちゃん」と呼んでくれる優しい声が好き。ずっと大好き。
しかし、である。
聖人に恋をしてから十年、いまだに私は聖人のただの“お嬢様”のままだった。
*****
「それはそうでしょう。いってしまえば向こうは仕事で、こっちは上司なんだから」
そうバッサリと私の悩みを切り捨てたのは、まさかの自分の実母である。
父とおしどり夫婦として知られ、自身も事業を展開する母は、父に恋する女性として、そして雇用主として非常に頼りになる相談相手だ。
しかし、頼りになりすぎるはっきりとした意見を受けて、私は思わずその場に撃沈した。
勢いが良すぎて、ゴッと凄まじい音が鳴ったが、幸いにしてティーカップにはぶつからず、損害はしたたかにぶつけた私のおでこだけである。
「…大丈夫?」
「おでこよりもママの意見のほうが痛かったからね…」
恨みがましく顔を上げると、母はころころと少女のような顔で笑った。
「ごめんごめん、でもあんたも懲りないというかしぶといというか、飽きないもんねぇ」
いつの間にか娘の恋心を見抜いていた母は、かつて私と同じように父に恋をして、猛烈アタックを繰り返していたらしい。
それでしっかり父を射落としたのだから、先人のご意見は賜りたいものだ。ただし、もう少し容赦してもらわねばこっちの心のほうが堕ちてしまう。
というわけでお茶会と称して恋愛相談していたにも関わらず、私の口調はついつい皮肉っぽくなった。
「二十年も同じ人に恋してるママにいわれたくない」
「あら、あたしは二十年パパに恋してるけど、愛してもいるのよ? 当然じゃない」
母子の勝負は、しれっとのろけてきた母の勝ちだ。
両親が仲睦まじいのは娘として喜ばしいが、自分の恋路が上手くいっていない今は妬ましくもある。
私は盛大なため息を漏らし、母に頭(こうべ)を垂れた。
「母上様、何卒お知恵をお貸しください…」
素直でよろしい、と偉ぶっていった母の顔は満面の笑みだった。
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