官能小説を読んでいるのが男友達にバレました

・作

OLとして働いている美鶴の最近のひそかな楽しみは、官能小説を読むこと。ところが男友達とさし飲みをしているときちょっとしたことでそれがバレてしまい…。『こういうの興味あるんだ』と言われ口止め料として要求されたのは小説の朗読すること。小説にない本気の嬌声が口からこぼれちゃう!

大学を卒業して文具メーカーに就職。希望は企画だったけれど、総務部。希望の部署ではなかったけれど、同僚はいい人ばっかりだし、仕事自体にやりがいも感じている。それでもいろいろとストレスはあるもので。
期限ぎりぎりで領収書もってきたり、むしろちょっと過ぎてるのをごり押しで通そうとしたり。新人だったころは先輩のフォローに助けられたものだが、今はこちらがフォローする側だ。

「頼むよ、ね。今度からはちゃんとするから」

とごり押ししてくるやつに限って大体次も期限を守らないことはザラだ。
そんなこんなもあり、ストレスというのはどこにいても何かしらあるものだと思う。それを発散するものを探しているうちに、あるものにどっぷりハマった。
家の郵便受けの入っていた大手通販会社のロゴが入った袋に胸が高鳴る。

「待ってました!」

少し前雑誌で女性に人気の官能小説が特集されていて、どんなものかと思って買ってみたらハマってしまった。男性名だけど作者は女性らしく、文章が綺麗で表紙の装丁も官能小説とは思えない綺麗な装丁。働く女性心理をよくわかっているなぁと思う作風や官能シーンでもさらっと読めるところが最高だ。官能小説はベッドシーンばかりだと思っていたけれど、ちょっと泣けるシーンもあったりして気が付けばどっぷりと沼にハマってしまった。

「新刊嬉しいなぁ」

そっと新しい紙の匂いがする文庫本の表紙を開く。明朝体でつづられためくるめく官能の世界に甘い眩暈を感じながら、眠りについた。

*****

金曜日、今日は定時で帰れそうだ。帰ったら本の続きを読もう!そう思ったところでスマホにメッセージアプリの通知が来た。

『明日休みだろ?久々に宅飲みしねぇ?出張先でいい地酒かったから』

簡潔で絵文字一つない文。私の唯一の男友達の忍からだった。本を読む以外予定もないので、それにOKの返信をする。前会ったのいつだっけな…。
大学時代からの付き合いとはいえ、いつの間にやらさし飲みもする仲に。2、3ヶ月に1回は会っている。下手したら学生時代の友達より会っているかもしれない。腐れ縁だと思っていたけど、今や気の置けない友人だと思ってる。

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