一度だけ抱いて、お兄ちゃん

・作

真子(マコ)は兄である大和(ヤマト)のことがずっと好きだった。大和が結婚を考えていると親伝いに聞いた真子は、ある夜大和の部屋を訪れ「一度だけ抱いてほしい」と懇願する。禁断の恋に、終止符を打つ為に。

「家族」だと思ったことなんて、一度もない。初めて会った時から今日までずっと、私は彼のことが好きだった。

それは、異性として。

「ねぇ、大和。私のこと抱いてくれない?一回だけでいいから」

唐突に訪れた大和の部屋は、随分と殺風景だった。彼は私よりもひと足先に社会人になり、来週にはこの家を出ていく。

大学三年生の私と、毎日忙しく働く大和。同じ家に住んでいても時間が合わず、顔を合わせる機会もぐっと減った。

「寂しい」なんて、言えなかった。だって私は、ただの妹だから。

高校に上がる頃には、大和に彼女が居ることに薄々気付いていた。そしてそれがいつも、長続きしないことも。

大和の一番の理解者は私だと、タカを括っていたのかもしれない。彼がずっと傍にいてくれると、自惚れていた。

「大和、結婚したい子がいるんだって」

母親からそう聞いた時、目の前が真っ暗になった。彼が私以外の人を選ぶなんて耐えられないと、そう思った。

だけどそれは、仕方のないこと。

「妹」は「恋人」にはなれない。

「は?なに言ってんの真子。酔ってる?」

大和は私の肩を押しながらへらりと笑う。

「酔ってないよ。本気だから」
「いやそれアウトだろ」
「でも私達、血なんか繋がってないじゃん」

もう一度、彼に顔を近づける。大和の綺麗な顔が一瞬戸惑うのを、私は見逃さなかった。

「来週には居なくなるんでしょ?」
「ずっと実家に住んでらんねぇだろ」
「彼女と一緒に居たいから?」

大和は、何も答えない。私はその形のいい唇に、強引にキスをした。

「おい、真子…っ」
「大丈夫。今家には私達以外誰も居ないから」
「そういう問題じゃ…っ」

分かっていた。大和が絶対に、私に乱暴しないということを。昔からそうだった。口ではキツいことを言いながら、丁寧に優しく扱ってくれた。

それがどれだけ嬉しくて、辛かったか。

「ん…真子…ちょ…っ」

唇を重ね合わせるたび、リップ音が部屋に響く。大和が息を吸い込んだタイミングで、口内に舌を滑り込ませた。

「ん、ん…っ、は…っ」
「まこ…っ、ダメ…っ、んっ」

初めて耳にする、大和の艶やかな声。

これが最初で最後なんだと思うと、今すぐに泣きたくなった。

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