昏睡

・作

酔いが醒めて目を開けてみると、見知らぬ部屋だった。男の部屋で目が覚めるなんてありえないと思っていたけれど、迎えに来てくれた幼馴染が介抱してくれていた。いつまで処女なのだろうかと悩んでいたけれど…。

目が覚めた場所は、知らない部屋だった。
オイルの臭いが充満していて、どこかのガレージのような部屋。

私は自分がどうして、こんな場所で目が覚めたのかも理解できないのに、呑気にオシャレな部屋に住んでいる人もいるのだなと再び目蓋を閉じた。

頭痛がして、吐き気もする。
自分の身体を触って、安否を確認すると、なんとかキャミソールとパンツは履いているようだった。
性交をした形跡は分からないが、なんとなく倦怠感は感じている。

薄暗い部屋だが、鉄格子がついた窓から入る光で、今がお昼頃だということは理解できた。
しかし一瞬で我に返る。
見知らぬ家で目が覚めるのは、数年ぶりだった。

勢いよく起き上がり、周りの様子を窺う。
目の前には、気付かなかったが大きな男の姿があった。

「おはよう」

「…おはよう」

一瞬で安堵が戻った。
酔った勢いで知らない男の部屋で目が覚めるなんて、恐ろしい悪夢だ。
その男は、幼馴染のヤマシロだった。
ハイトーンにブリーチしてある肩まで伸びた髪の毛が印象的な男だ。

「コーヒーでも飲む?酷い顔してるけど」

「ありがとう、怖いこと考えちゃった」

男が嫌いなわけじゃない、いっそ好きだけど、真剣に恋愛をして結婚をして子供を作ると考えると、恋愛は控えたいとすら思っている。
そんなことを考えているとは思えない自分の見た目にも笑えてくる。

どうみても、遊びほうけていそうな夜の仕事の女って感じの雰囲気だし、実際にアルバイトを転々として夜の仕事もしている。
それでも、男と一夜だけの関係なんて考えられなくて、今でも処女のままだった。

「頭が痛いけど、私昨日何かあった?」

「ちょっとだけ、暴れたけど何もないわね」

「それってどういうこと?」

話を聞くかぎり、私が酔ってヤマシロに電話を掛けて店まで迎えにきて貰ったらしい。
なんでヤマシロに電話をしたのかは不明だけど、バッグの中には日払いで貰ってきたバイト代がそのまま突っ込まれていた。
こんな退勤の仕方は初めてではなかったけど、ヤマシロの家で目が覚めるのは初めてだった。

「もう夜は辞めなさいね、お酒弱いんだから、向いてないわよ」

「そうする、そもそも接客業自体やめます」

ヤマシロにお説教をされるのは、何度目だろう。
昔から女の子みたいだったヤマシロだけど、今は長身の逞しい男に成長した。

誰にも言っていないみたいだけど、たぶん“ゲイ”もしくは“オカマ”の部類の人だ。
ただ、女装をしている所は見たことはないけど、私がどんな格好をしてようが、何もしてこないあたり、ゲイで間違いないだろう。

「ミライ、ちょっと仕事に戻るから勝手に着替えて帰ってちょうだいね」

普段はどんな言葉づかいをしているのだろう。
さすがに職場ではお姉言葉で話すことなんてしていないだろうし、
傍からみれば普通の男の人に見えるのかも知れないけれど、私からすればどうしても普通の男性には見えない。

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