うちの幽霊クンはテクニシャンで魅惑の絶倫巨根!

・作

周囲の反対を押し切り、事故物件に引っ越した渡来和泉(わたらいいずみ)。心霊現象を全く信じていない和泉だったが、ある晩金縛りに遭ってしまう。見えない手は愛でるように和泉の全身を這い回り…予想外の手練手管に和泉はすっかり骨抜きに! ついに和泉は幽霊相手に「入れてほしい」と淫らにねだってしまい…!?

都内、駅チカ、1LDKのマンション。

オートロックに宅配ボックスまで付いて、お家賃4万円となれば、何か裏があると相場は決まっている。

うちの場合は、前の住人が部屋で死んでいるらしい。

いわゆる、事故物件というやつだ。

神妙な顔で物件の説明(紹介というより、あれはお化け屋敷に入る前の説明だった)をした不動産会社の人は、告知義務というやつなのか、わりと細かく事情を教えてくれた。

――という、引っ越しの経緯を話題として提供すると、友人はすっかり青い顔になっていた。

「…それで、契約しちゃったの?」

「しちゃったねぇ」

私が笑って頷くと、友人は目を剥いて悲鳴を上げた。

その顔つきは、今まさに幽霊を見たようとも、彼女自身が鬼のようにも見える、険しいものである。

「馬鹿じゃないの!? 今からでもいいから断ってきな!」

「え、やだよ。私、幽霊信じてないしさぁ。そもそも人が死んでない土地なんてないわけだし、大騒ぎするほどじゃ…」

「するほどでしょ! え、なんで死んだの前の人!」

「一応、病死らしいよ。虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)ってやつ? 大丈夫、事件性はないって」

「何も大丈ばない!」

友人としては、つい先日そこで人が死んだような部屋で眠る神経が理解できないという。

そんなことをいっては、ちょっと大きな病院に入院など絶対にできなくなると思うのだが、火に油となりそうなので黙っておいた。

元気に喚く友人はその場でなんとかなだめすかしたが、事情を知った家族も、私が事故物件に引っ越すことにいい顔はしなかった。

曰く『何かあってからでは遅いのだ』と。

しかし、別にこの部屋で殺人事件が起きたわけでもない。

慢心するつもりはないが、セキュリティ万全の部屋に、唯一ついた玉に瑕(きず)は“住民が病死した”という事件性のない心理的瑕疵(しんりてきかし)だけ。

だが、この心理的瑕疵のおかげでお家賃は相場の半額どころか三分の一――とくれば、文無しフリーデザイナーに選択の余地はないのである。

かくて私は“事故物件”もとい“心理的瑕疵物件”に引っ越してきた次第だった。

*****

実際、最初の数日は特に何も起きなかった。

部屋で亡くなったのは私と同い年くらいの男性らしく、ベッドの上で眠るように息絶えていたらしい。

季節は冬、彼が出社してこないことを不思議に思った会社からの連絡で、合鍵を持っていた家族がすぐに様子を見に行ったので、腐敗する前に発見されたという。

とはいえ、さすがに同じ位置にベッドを置く気にはなれず、代わりに本棚を置くことにした。

本がひとりでに落ちたり宙に浮くなんて心霊現象は起きることもなく――何かあったのは、ある晩突然で、完全に予想外の形だった。

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