桃は蘭に咲く (Page 3)

次の瞬間。

きゅっと抱き寄せられる。

エプロン越しに伝わる体温。
制服の布の薄さ。

「……っ」

声が漏れる。

耳元で囁かれる。

「もう、我慢しなくていいよ」

その一言で――

本当に、止まらなくなった。

桃の腕が、背中に回る。

自分から。

ぎゅっと抱き返してしまう。

「……ほら」

蘭の小さな笑い声。

「やっぱり我慢してた」

唇が、触れた。

一瞬。

軽く。

確かめるだけ。

なのに。

離れたあと、桃は追いかけてしまった。

自分から。

「……あ」

目が合う。

数秒。

それだけで分かる。

同じこと考えてる。

同時だった。

もう一度、唇が重なる。

さっきより深く。
長く。

バックヤードの狭い空間で、
制服のフリルが擦れる音だけが小さく鳴る。

「……ね」

蘭が吐息混じりに言う。

「もう接客戻れないよ?」

キスの合間。

桃は息を乱しながら答える。

「……ん……戻らなくて、いい……」

その瞬間、

抱きしめる力が強くなった。

蘭は嬉しそうに笑う。

額を寄せて、

「じゃあ」

小さく囁く。

「休憩の時に…続き、しよ?」

休憩室のドアが閉まる音。

外の喧騒が、一瞬で遠くなる。

沈黙。

数秒。

次の瞬間――

背中が壁についた。

「桃」

近い声。

逃げ場、ゼロ。

蘭が目の前に立っている。
さっきまで客の前で見せていた、完璧なメイドの顔はもうない。

少しだけ意地悪そうな、いつもの顔。

「接客してる時ずっと見てたよね」

桃は視線を逸らす。

「……見てない」

「嘘」

即答。

蘭の指が、そっと桃の袖をつまむ。

「妬いてた?」

桃の喉が鳴る。

視線が泳ぐ。

「あ……あんな顔、見せなくていいじゃん」

勢い余って、本音がこぼれた。

言った瞬間、固まる。

蘭は一瞬目を丸くして――
それから、嬉しそうに笑った。

「ねえ、桃」

小さく囁く。

「桃の気持ち、私にだけ教えて?」

桃の喉が鳴る。

沈黙。

それから、桃が小さく息を吐いた。

「……蘭が」

蘭が瞬きをする。

「蘭が、あんな顔するから」

声が小さい。

でも、はっきりしている。

「……私だって、我慢できなくなる」

一瞬、蘭が固まる。

「……桃」

「なに」

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