桃は蘭に咲く (Page 2)
バックヤードのカーテンの向こう。
白いエプロンの紐を結び直しながら、桃は小さく息を吐いた。
「……っ、も、無理……」
視線の先。
同じ制服。
同じフリル。
同じカチューシャ。
――でも、違う。
「ねぇ」
くすっと笑いながら近づいてくる。
「そんな顔で接客してたの?」
蘭だった。
「してないし……」
「してた」
即答。
距離が縮まる。
制服のレース同士が触れそうな近さ。
「ずっと見てたもん」
囁き声。
耳元。
「……っ」
(むり)
(近い)
(好き)
肩が跳ねる。
桃は逃げない。
逃げられない。
なぜなら――
その声が好きだから。
「今日さ」
蘭の指先が、袖口をなぞる。
「ずっと我慢してたでしょ」
触れてないのに、触れられてるみたいな距離。
呼吸が浅くなる。
「……してない」
「嘘」
即答。
優しいのに逃げ道がない。
「目で分かる」
静かに、手首を取られる。
強くない。
けど、外せない。
「私が横通るたび」
少し近づく。
「息、止まってた」
桃の顔が熱くなる。
否定したいのに、声が出ない。
その沈黙を見て、蘭は嬉しそうに笑った。
「やっぱり」
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