視界も中も、巨大ぬいぐるみに埋め尽くされる
ずっと夢だった、2メートル超えの巨大なうさぎのぬいぐるみをお迎えした。この子が待っていると思うと、仕事も頑張れる。しかし、お迎えした次の日の夜に一人で「して」いると、壁際に座っていたはずのぬいぐるみが覆いかぶさってきて——。
やってしまった…。
買ってしまった…。
「やばい…」
深夜1時過ぎ。判断力が最も鈍る時間帯。
暗闇の中、光るスマホの画面に表示された「購入が完了しました」の文字。
2メートル20センチ!
真空パック詰め・圧縮配送!
限定1点!
フリマサイトの商品画像に写っているのは、モデルの女性をすっぽりと包み込むほど巨大なうさぎのぬいぐるみ。
ワンルームに、2メートル超えの存在を迎え入れるなんて、正気の沙汰じゃない。
けれど、ずっと夢だったのだ。
まだ実家暮らしだった学生時代に人気配信者の開封動画を目にしてから、この巨大なぬいぐるみをお迎えするのが。
非現実的すぎる存在が家にいるなんて、ワクワクするに決まってる。
社会人になって、一人暮らしを始めて、初のボーナス。
そして、フリマサイトで見つけてしまった格安新品未開封商品。
これだけ条件が揃ってしまったら…お迎えせざるを得ない。
「部屋、片付けないと…」
疲れて帰ってきた夜、ふわふわのぬいぐるみの腕に包まれたらどんなに安心するだろう。
その日はやたら目が冴えてしまい、そのまま深夜に模様替えまでしてしまった。
*****
——それが、3日前の話。
待ちに待った今日、若い宅配のお兄さんがドアにぶつけながらもなんとか玄関に入れた段ボールは、意外と私の腰くらいまでの高さしかなかった。
中身は、キューブ型の巨大な透明ビニール袋。ぴっちりと空気を抜かれて、毛並みも、耳も、尾も、全部が押し潰されている。
「…なんか、ちっちゃくない?」
商品説明によると「開封後数時間で元のサイズに戻ります」と書いてある。
カッターで端を切ると、しゅうう、と小さな息のような音が漏れた。
袋に切り込みを入れた部分が盛り上がる。
押し潰されていた毛がもこもこと立ち上がる。
閉じていた腕が、脚が、時間をかけて伸びていく。
「でか…!」
ぬいぐるみは、ものの数分でほとんど原型を取り戻していった。
まだ少しくったりとしている巨大なうさぎに寄りかかる。
届いたばかりの毛はひんやりと冷たく、私の頬をくすぐった。
「ほんとにいる〜…」
ふわふわと毛が動いているのを感じる。まだ空気を吸い込んでいる最中なのだろう。
夢を叶えた実感にうっとりしながら、私はぬいぐるみに抱きついて目を閉じた。
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