筆の先の罪―キャンバスにほどかれた私― (Page 4)

拘束された両手首は、目隠しの中で時間の感覚を失い、温度さえ曖昧になっていた。

頼れるものは、ただ彼の指先の感触だけ。

そこに触れられるたび、ようやく“現実”が形を成す。

そんな錯覚に、沙月の呼吸は徐々に浅くなっていった。

肌にふわりと湿った吐息が落ちたかと思えば、次の瞬間、彼の舌が胸元に触れた。

あまりにも繊細で、けれど確かに――逃げ場を与えない触れ方。

ぞわりと震えが走る。呼吸が喉元で止まりかけたその時、彼の声が静かに落ちてくる。

「旦那さんは、こんなふうに触れてくれましたか?」

「……やめなさい」

絞り出すような拒絶の声は、どこか虚ろだった。

言葉と裏腹に、身体はもうずっと前から、抗うのをやめていた。

「僕のほうが、先生を知ってると思う」

「うそ……そんなこと……」

目隠しの奥で目を閉じながらも、沙月は否定の言葉を紡いだ。

だが――それはただのかすれた音でしかなかった。

照真の指が、再び胸元のふくらみの外縁をなぞるように動いた。

「嘘だったら、ここまで熱くなってないはず」

その言葉に、沙月の背中がぴくりと反応する。

身体が、まるで真実を肯定するように動いてしまうのだ。

そして――次の瞬間、絵筆が肌に触れた。

ひやりとした先端が、乳房のふちをゆっくり、じわじわと円を描くように滑っていく。

筆先に含まれた絵の具が、うっすらと皮膚に冷たい筋を残し、それをなぞるように彼の吐息が降りてきた。

「っ……あ……」

言葉にならない吐息が、唇からこぼれる。

冷たい感触と、吐息の熱――正反対の刺激が交差するたび、沙月の肌はまるで命を吹き込まれたキャンバスのように反応していく。

「これが、芸術です」

静かに、しかし確信に満ちた声が、耳元でささやかれる。

彼は、指に残った淡い色の絵の具を見せつけるように口元に持っていき、唇でそっとなめ取った。

その仕草さえも計算された“演出”のようで、沙月の喉奥にまた別の熱が生まれる。

見られていないのに、見られている――
触れられているのに、手の内にある感覚――

目隠しと拘束の中で、彼女は自分という存在を塗り替えられていくのを、もう止められなかった。

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