筆の先の罪―キャンバスにほどかれた私― (Page 3)
「どうして、そんなに冷静なの?」
目隠しの下で、沙月はかすれた声を絞り出した。
彼の吐息が肌に触れるたび、身体のどこかが反応してしまうのが悔しかった。
だが照真は、至極穏やかに答えた。
「冷静じゃないですよ。だって……ここ、もう濡れてる」
「っ……!」
その言葉は、あまりにも無防備で、あまりにも的確だった。
言い逃れの余地など与えない、事実としての観察。羞恥が一気に込み上げ、指先にまで熱が走る。
その瞬間、彼の舌が――シャツのボタンが外れた胸元に、ひやりとした湿度を落とした。
「ひ……っ」
思わず、喉の奥から声が漏れそうになる。
だが、彼の動きは乱暴ではなかった。むしろ、神経質なまでに丁寧で、迷いがなかった。
「指を入れても、いいですか」
ごく自然な問いだった。けれど、それがかえって背筋を凍らせる。
「……絵を描くんじゃ、なかったの」
絞るような声で、なんとか理性の防波堤を築こうとする。
しかし、照真は静かに微笑んだ気配を漂わせながら言った。
「これは“描く”ための前準備です。先生の一番美しい線を、感じておきたい」
言葉と同時に、彼の指が沙月の下腹部へと滑っていく。下着の上から、そっと触れる。
まるで筆先をキャンバスに置くときのように――慎重で、優しく、だが決して曖昧ではない圧。
「やめて……そこは……っ」
腰が逃げようとわずかに動いたその瞬間、彼の手が静かに沙月の太ももを押さえた。
「先生が“やめてほしくない”って、言ってるようにしか聞こえません」
耳元に落とされた囁きが、火照った鼓膜にじわじわと染み込んでいく。
言葉責め――というにはあまりに冷静で、あまりに淡々としていた。
まるで彼は、自分の作品が“どこに反応するか”を確認しているだけのようだった。
だがその無表情の奥に、濃密な欲望がひそんでいるのを、沙月の肌は確かに感じていた。
甘い媚薬のせいなのか、それとも自分の心が自ら堕ちていっているのか――もう、その境界はとうに曖昧だった。
彼の指が、下着越しにもう一度、ゆっくりと撫でた。
布を隔てているというのに、熱と震えは確かに伝わってくる。
「……ここが、先生の一番素直なところですね」
「やっ……違……っ」
否定の声は、もはや呻きに近かった。
彼は耳元で、小さく息を吐いた。
「全部、感じていいんですよ。今夜は、僕のモデルなんですから」
その一言に、沙月の中で何かが溶けていく音がした。
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