私の帰り着いた場所 (Page 2)

先輩は私のマンションの前に車を止めた。
大雨の中、傘を差しながら、階段の下まで送ってくれた。
私は部屋のある三階まで駆け上がった。

廊下に人影が見えた。
蒼太だった。
私に走り寄ると、「びしょ濡れじゃないか!」とバスタオルで包み込んでくれた。

抱えられるように部屋に入り、玄関で髪を拭いていると、彼が訊いた。

「あの男は誰?」

私は顔を上げた。

「車で、繭を乗せてきた人」

「…ああ、バイト先の先輩。自転車だと危ないからって、乗せてきてくれたの」

すると彼は、とがめるような口調で言った。

「メールくれれば俺が迎えにいったのに。なんで店から連絡してこないの?時間も…いつ帰るかわからなくて心配した」

「…あ…ごめん…すごい雨が降ってきて…急にお開きになって、会計とか、なんか慌てちゃって…」

悪いことをしたわけでもないのに、責められるような雰囲気になり、モゴモゴと口ごもってしまった。

「他の男に頼るなよ、俺悲しくなる」

「…」

「繭は、肝心なときに携帯つながらないし、予定変更とか連絡してこないし…最近、頼りにされてない感じがする」

また始まった、被害妄想が。
蒼太は愛情深いが、心配性で嫉妬深い面がある。
これまで何度か責められたり口論をしては、時間をかけて説明して、なんとか解決していた。

しかし、そのときの私はひどく疲れていた。

「…シャワー、浴びたい。どいて」

彼は私の腕をつかんだ。

「こっち見て、ちゃんと話してよ」

ムカっときた私はその手を振り払った。
その勢いで、彼を突き飛ばすかたちになってしまった。

「なんだよ!」

怒った彼は私を無理に抱きしめようとした。

疲労感にくわえて、呆れと、虚しさ。
なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?

私はくるりと向きを変えると、玄関を飛び出した。
荷物は、そのとき持っていたバッグだけ。

「おい!繭!どこに行くんだ!」

蒼太の声が廊下に響いたが、見向きもしなかった。

その後、どうやって実家にたどり着いたのか、さっぱり覚えていない。
覚えているのは、濡れねずみのようになった私を、泣きながら拭いてくれた母の顔だけだ。

*****

気がつくと、三年暮らしたあのマンションの前に立っていた。
部屋の前に立つと、インターホンを鳴らす。

ドアが開いて、蒼太が顔を出した。
少し痩せた…?

「急に連絡したのに、来てくれてありがとう」

「ううん。今日は時間があったから、大丈夫」

部屋に上がると、何も変わっていなかった。
びっくりするほど、当時のままだった。

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