雪の密室で、名前を呼ぶ
大学の合宿先で予期せぬ大雪により山荘に取り残された女性教師と男子学生。外界と隔絶された静かな空間の中、ふたりは互いの孤独や過去に触れながら、少しずつ心と身体を近づけていく。年齢や立場を越えて芽生える感情の行方を、繊細かつ官能的に描いた一夜の恋愛ドラマ。
静かに降り積もる雪が、山荘の外界との繋がりをゆっくりと絶っていた。
薪ストーブの火がぱちぱちと音を立てるたび、室内の空気が柔らかく波打つ。
紗耶は古びたロッキングチェアに腰を下ろし、湯気を立てるマグカップを両手で包み込んでいた。
「こんなに降るなんて、聞いてなかったわ」
呟きに応じるように、窓の向こうで風が唸った。
ここは大学の研究室が所有する山荘。数日間の集中合宿の予定が、天候の急変で足止めを食らってしまったのだ。
他の学生たちは昨日のうちに下山していた。残っていたのは紗耶と、たまたま最後まで片付けをしていた遼だけだった。
「……先生、ココア飲みます?」
声がして振り返ると、遼が湯気の立つマグをもう一つ差し出していた。
その手のひらはまだ少年のように細いのに、指先には不思議な温度がある。
「ありがとう。気が利くのね」
軽く微笑んだ紗耶に、遼は照れたように眉を下げた。
彼の横顔は、光を反射する雪の白さに照らされて妙に大人びて見える。
「先生さえよければ、今夜はずっとここで話し相手になりますよ」
「頼もしいわね。……じゃあ、遠慮なく甘えておこうかしら」
遼はゆっくりとソファに腰を下ろした。
紗耶との距離は近すぎず、けれどどこか計算されているようでもあった。
「紗耶先生って、誰かと暮らしてるんですか?」
その問いは不意に降ってきた。
マグカップを口元に運びながら、彼女はわずかに目を伏せる。
「昔はね。でも今は、一人よ」
遼は頷いた。そして、何も言わず彼女を見つめていた。
視線に熱がこもっている。冷えた部屋のどこかに、灯が灯ったような感覚だった。
「先生は、ずるいですね」
「……どうして?」
「そんな顔をして、何も知らないふりをする」
その言葉が落ちると同時に、ソファのクッションが軋んだ。
紗耶のすぐ隣に、遼がそっと腰を寄せたのだ。
一瞬、息が止まった。
だが、彼の手がそっと紗耶の指に触れたとき、そのぬくもりは不思議と拒めなかった。
「遼くん……」
「逃げないでください。今夜だけでも」
唇に触れることはなかった。けれど、指先の触れ合いと静かな温度が、何より濃密な熱を生んでいた。
いい年して
年下の僕ちゃんと初体験なんて作り話にもほどが有る
るい さん 2025年10月9日