夫がいる私に、同級生は「ずっと好きだった」と言った (Page 8)
改札の前で足を止める。
「今日は…ありがとう」
美咲がそういうと、悠真はいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「こちらこそ。また会えたら嬉しい」
その言葉に小さくうなずき、美咲は改札を抜けた。
振り返る勇気はなかった。
振り返ったら、また戻ってしまいそうだったから。
*****
電車に揺られながら、窓に映る自分を見る。
少し乱れた髪。
頬に残る熱。
ホテルへ向かう前と同じ服を着ているのに、
別人になったような気がした。
どうしてあんな言葉が口をついて出たのだろう。
「もう少し、一緒にいたい」
あれは確かに、自分の本心だった。
四十五歳になっても、人を好きになることがあるなんて思っていなかった。
家庭を持ち、母として生きることが当たり前になっていた毎日。
その奥で、女としての自分はもう眠ってしまったものだと思っていた。
だけど今夜、その眠っていた心は静かに目を覚ました。
*****
スマートフォンを開く。
そこには、悠真から届いた短いメッセージ。
『今日は本当にありがとう。会えて嬉しかった。気をつけて帰ってね』
その一文を見つめるだけで、自然と口元が緩む。
胸の奥が温かく、
それだけでは言い表せない嬉しさが広がる。
明日になれば、またいつもの日常が始まる。
妻として、母としての私に戻る。
それでも―。
今日という夜だけは、誰にも奪われたくない。
美咲はスマートフォンを胸に抱き寄せ、小さく目を閉じた。
電車は静かに夜の街を走り続けていた。
Fin.
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