わるいおんな
わたし、こんな女の子じゃなかった。男の子を騙してエッチに持ち込んで、種馬にするなんて──。何不自由ない生活を送っているけれど、夫に愛されていない美雪。彼女は若く美しい咲人を罠にかけ、その肉体を味わう。本当の心を見失ったまま、ふたりは快楽の地獄に落ちてゆく……。
「あの子にするわ」
「彼でいいの?」
「医学部の子もいるわよ。ラグビー部とか、元アイドルの男の子も」
「ええ、彼がいいの。顔立ちが可愛らしいじゃない?わりと好きだわ、こういう子」
嘘だ。私はにっこりと笑い、おばさま方と笑い合う。私はこんな喋り方をしない、もっと乱暴で、男の子みたいに喋る子だった。
夫の実家邸宅で定期的に行われる「激励会」が、ただの飲み会だと信じている者はいない。
少なくとも女性は皆その実態を知っている──親戚から集められる、二十代の見目麗しい男の子。そして彼らに「激励」の名目で、酒や御馳走を振舞う年上の女たち。
女たちの目的は若い肌、そして種だ。美雪は冷え切った心地で、ビールを飲む青年を見つめた。有名私大工学部の学生、サッカー部。
歯並びが良く、両親は経営者。同じ大学の文学部に恋人がひとり……。
アーモンドの形をした目は、夫によく似ている。くすくすと笑いあう叔母たちに会釈をして、美雪はその青年に近寄った。
「こんにちは、咲人くん」
「あ……はい、初めまして」
「そんなに固くならないで、私たち親戚なんだもの。美雪おばさまって呼んでいいのよ」
「おばさまじゃないです。お姉さんですよ、美雪お姉さん」
「まあ、お世辞が上手……」
「光井商事の秋生にいさんの奥様ですよね。俺、秋生さんからサッカーを教わったんですよ。確か国体まで行ったって」
「今はただのおじさんよ。あなたと十歳くらい違うのかしら」
「そんな。秋生にいさんが羨ましいです、こんな美人と結婚なんて」
白い歯からこぼれ出る、素直で懸命な賛辞。今の美雪にはその素直な言葉が最も沁み渡る……嘘と見栄、面子を保つことにはもう疲れた。純粋な若い子が羨ましい。
実際のところ、美雪と咲人の年齢はそれほど離れていない。だがすっかり大人の世界に染まってしまった美雪にとって、咲人の若々しさはとてつもない魅力だ。この子が欲しい、この美しい青年が。
愚かで優しい金持ちの夫、一枚十万円のカットソーとスカート。……子供が欲しい。私を見上げて慕う、無垢なものが。
「咲人くん、この後予定ある?二次会行くんだけど」
「すいません、部活の夜練が……飲んでるのも実はジュースなんです」
「あら残念。そのうちまた呼ぶから、連絡先を交換させて」
「……秋生にいさんに怒られませんか?」
「やあね、そんなわけないでしょ。お買い物するときの荷物持ちができたねって、喜ぶだけよ」
「え、俺いきなり銀座に呼び出されたりするんですか」
ああ、なんて可愛いんだろう。美雪は上品に笑って、何も知らない青年と連絡先を交換し合った。銀座ですって!なんてかわいいの、あなたが行くのはそんな安っぽい場所ではないわ。
この子が欲しい。絶対に捕らえてみせるわ──汗の浮いた小麦色の肌、実直な黒い瞳。年上の親戚を簡単に信頼する優しさも、全部、全部が私のものだ。
──どうやっても手に入れる。美雪は素っ気ないふりをして、バイバイと咲人に手を振ってやった。若き狩人の振る舞いを、おばさまたちが見ている──。
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