2人の男に愛された夜 (Page 3)

愁と会ったのはちょうど5年前。
クライアントに誘われた飲み会で、静かに話を聞いてくれたのが愁だった。

当時は私が結婚していて、ただ気の合う話し相手だった。
少し長めの前髪に大きな瞳が好みだと思ったのは、心に秘めた私だけの秘密。

池袋の書店で偶然に再会したのが1年半前。
35歳の誕生日を控えた私は離婚が成立したばかりだった。

7つ年下の愁。
歳の差を感じさせない大人びた思考と柔らかな物腰に私は夢中になった。
正確には、夢中になったフリをした。

「足を止めてしまうと現実に飲み込まれてしまいそうだったから」
といえば少しは綺麗に聞こえるだろうか。

何度かデートを重ねた後で、「実は同棲している彼女がいる」と聞かされた。
その時にはもう、身体を重ねてしまっていて後戻りができなかった。

「どうして抱いたの?」
なんて子どもじみたことを口にできるほど、若くはない。

「ふぅん」
と、ひとこと呟いて微笑んだ。

そっと目を閉じて耳を塞いで。
二人の鼓動だけが聴こえる部屋はいつも借り物で、沢山の愛がかわされる場所だった。
ホテル街のネオンは、仕事帰りの疲れた顔を少しだけ綺麗に見せてくれる気がした。

*****

1歳年上の祐弥は、高校の時に付き合っていた憧れの先輩。
当時は、手を繋ぐだけの淡い恋だった。
祐弥の卒業を機に別れたけれども、社会人になって愚痴を吐いたのをきっかけに、ちょこちょこと連絡を取るようになっていた。

「やっと日本に帰ってきたよ」
商社で忙しく世界を飛び回る彼からのメッセージになぜか涙があふれた。

「離婚、しました」
たったそれだけのメッセージを送るために、深呼吸を何回もして、缶チューハイを1本空けたのが1年前。

「今、何処?会いに行く」
メッセージを確認するとすぐに電話が鳴った。

「ゆみり?」
「祐弥…先輩…」
優しい声にほっとした。

「ごめんな。もっと早く帰国できれば良かったんだけど」
「お仕事だもん」
「いや、お前の方が大事だろ?待ってろすぐ行くから」

そういって祐弥は本当に私の部屋まで来てしまった。
祐弥はただ黙って、私の話を聞いてくれた。
別れた旦那のことも、愁のことも。

「俺さ、まだフリーだよ」
祐弥の言葉に、弾かれるように顔をあげた。
その時に見た熱いまなざしを鮮明に覚えている。

「仕事忙しくてって言い訳してたけど、まータイミング悪くてなんとなくな」

モテない筈はない。
それは私が一番知っている。

肩を並べて歩くだけで、振り返る可愛い女の子たち。
私はいつも、いたたまれない気持ちになって俯いて歩いた。

「駄目よ。私、彼がいる…」
愁の顔を思い浮かべながら思わず目を逸らした。

「ゆみりは俺のものだろ?」
心臓がドクンと跳ねた。

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