2人の男に愛された夜

・作

7つ年下の愁(しゅう)と、1つ年上の元カレ祐弥(ゆうや)、2人と体の関係を持っているゆみり。離婚した寂しさを埋めてくれた愁に想いを寄せているけど、愁には同棲相手が居て…。2人の間で揺れるゆみりが大人の決断をした一夜をどうぞ。

私が思うに、愁はセックスが上手い。
肌が合うっていうのはこういうことなんだろう。

優しく髪を撫でてくれる手が、やがてゆっくりと身体に触れる。

「今日は何処がいいかな?」

少し低い声に、心臓が跳ねる。
顔が熱くなるのを感じる。

彼が触れる所全てが熱を帯びるように熱くなる。
気持ちが入るって、こういうこと。
何をされても、しても、全部良い。

「綺麗だよ」
という愁の言葉に、恥ずかしくなって顔を背ける。

「可愛い」
と髪にキスをされた。

時間が優しく流れていく。
私は愁に、包まれ、癒され、溶け合う身体の境目を見失いそうになる。
磁石のようにピッタリと合いそして離れない。
吸い付くような感覚に、うっとりと目を閉じる。

「ねぇ、愛してる…」
うわ言のように囁くと、愁は必ずキスをしてくれる。

「僕もだよ」
その一言を聞くだけで、いまだに身体が反応してしまうことを、恥ずかしくて愁には言えないでいる。
何度肌を重ねても、まるで初めてのように。
私は愁にときめいていた。

「もう時間だね、支度しないと」

薄暗い部屋の明かりをつけると、薄いオレンジ色だった天井が白に変わる。
私はその瞬間が何故か好きだ。

けれども、いつも少し寂さを感じる。
愁が帰ってしまうのが怖いから。

軽くシャワーを浴びて、メイクをなおしながらふと手を止める。

「キスするなら口紅は駄目よね?」
細い背中に問いかける。

「そうだな」
とそっけない返事が返ってきた。

少し迷ったけど結局口紅はつけなかった。
さよならのキスがどうしても欲しかったから。

手を繋いでホテルを出ると大きな月が2人を照らす。

「今夜も月が綺麗ね」
「君は本当に月が好きなんだね」

愁は私のことを名前では呼んでくれない。

さっきまで感じていたぬくもりが嘘のように、そんな些細なことが、いちいち棘となって刺さる。
私は気が付かないふりをして、愁の腕にしがみつく。

今夜もまた。
駅で別れたら、メッセージの返信すらないんだろう。

会いたいのはいつも私だけ。
愁からの連絡を期待して待つのは疲れるからやめた。

でもそんなこと、些細なことだろう。
だってベッドの中では、確かに愁は私を欲してくれるのだ。

ガード下をくぐって改札前で愁とキスをする。
待つ人がいる愁は、別れ際に名残を惜しむこともなく足早に去っていく。

ここでもう何度ため息をついたことだろう。
何度取り残されて立ち続けただろう。

毎週決まった曜日の同じ時間に、泣き出しそうな顔をして改札で愁を見送る私は、そのうち駅の名物になるかもしれない。

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