ひ弱な彼が野獣に変わる夜

・作

瀬良美紀(せらみき)26歳は、広告代理店に勤めており、クライアント先で病弱でいじめられっ子の幼なじみ、藤本拓実(ふじもとたくみ)と再会する。昔のひ弱なイメージとは裏腹に、逞しく成長した拓実に元気付けられ、身体もトロトロに蕩かされることに…

「ん…ぁん…ぁあっ!!」

細く綺麗な長い指が、私の身体中をまさぐり快感を与える。

優しく触れられれば、ゾクゾクと背筋から気持ちよさが広がり、強く激しく触れられたら、拓実の背中に爪痕を残してしまうほどの快楽に溺れてしまう。

「もぉ…欲しい…の…」

「そんな素直に可愛く言わないでよ…余計に手加減できなくなる…」

硬くそそり立つそれは、私の潤んだ中心をなぞり、クリを軽く刺激してくる。

「んぁっ!……んん…たくみぃ……」

ヌチャっと粘着質な音を立てると、グッと腰に力が入ったのがわかり、ゆっくりと私の中心へと割り入って来る。

密着した身体をギュッと抱きしめ、喜びに震えながらも、ほんの一瞬だけ感傷的な気持ちになった。

なぜなら、私に覆い被さる全裸の彼に、かつての子供の頃に見たひ弱な面影はなかったから──。

「ねぇ…いつから…そんなに逞しくなっちゃったの…」

掠れた声で呟く。

「全部…美紀ちゃんのためだよ…」

熱を含んだ声と獣じみた眼差しだけで、私の中心から熱い蜜が溢れるのがわかった。

「すごい締め付けなのに、中トロトロ…今ので感じちゃった?」

悪戯っ子のように目を細めながら微笑むと、イヤラシイ腰つきに変わった。

子宮に届きそうなほど、奥をグリグリ突かれたかと思うとギリギリまで引き抜かれ、弱い所をピンポイントで責め立てられた。

そんな拓実との情事に溺れて、ノスタルジックな考えは掻き消されてしまったのだった……。

*****

拓実と再開したのは、取引き先でのことだった。

広告代理店に勤務している私は、リーダーとしてまとめ上げてきたチームの完成形として、なんとしても今回のコンペに勝つ必要があった。

何ヵ月もかけて準備して、プレゼンの練習もバッチリやったし、できる限りのことはやった。

残すは、本番のみ。

競合相手は、ここ2、3年で急成長している会社だ。
絶対に負ける訳にはいかない。

意を決して、取引先のエントランスに進むと、クライアントがわざわざ出迎えてくれた。

その中に、見覚えのある顔があったけれど、でも、なかなか思い出せない……。

わかりそうでわからない、喉に支えたもどかしい気持ちにいつの間にか、眉間に皺が寄っていたようだ。

「瀬良さん、そんな緊張なさらずに、肩の力を抜いてください。プレゼン楽しみにしていますよ」

「はっ、はい!よろしくお願いいたします」

顔馴染みのクライアントに声を掛けられ、はっと我に返った。

(今はこのプレゼンにすべてを掛けて、集中して臨まなくちゃ!)

私は、自分に言い聞かせた。

でも、プレゼン場所である会議室に近づくほど、足が震えだしてきたのだ。

手汗が吹き出し、唇は乾燥して、緊張は最高潮に達している。

(怖い…失敗したらどうしよう…負けたくない…でも、上手く話せなかったら…)

マイナスのことばかりが頭を過って、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

私は、上手く呼吸ができずに、酸欠をおこしてフラっとよろめく。

倒れる瞬間、

(あぁ、ヤバイ…転んで資料ぶちまけるかも…)

そう思って目を閉じた──。

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