海辺の花は咲き乱れ ~デザイナー男子の秘めた想いが、私を狂わせる~

・作

五十嵐あやかは出版社の裏方で働くアラサー女子。ある日突然、会ったこともないイケメン有名デザイナーに「ずっと会いたかった」と言われ、花のように愛でられながらとろとろあまあまなエッチで口説かれて──?

「花を踏まないで」

 海辺を歩いていると、突然話しかけられた。私は砂に足を取られ、転んだ。

*****

 私は都内出版社に勤めている。部署は営業。
 出版社の花形はなんといっても編集部。スター作家とやりとりをして、飲みに行ったり、パーティーをして……。

 一方、私たち営業部の仕事は地味だ。部数を決めて印刷、書店にお願いして売ってもらう。地味で感謝されない、大切な仕事だ。

 趣味は浜辺を歩くことだ。休みのたびに電車に乗り、ひとりで海に行く。
 その日、私は鎌倉の浜辺を歩いていた。宿も予定もない一人旅だ。そうして、転んだ。

*****

「わぁ……」

 砂浜に座り込んで顔を上げると、薄いピンク色の花が広がっていた。
 すらりとした男性がこちらに駆け寄ってくる。彼は穏やかに微笑み、頭を下げた。

「ごめんなさい、急に声をかけてしまって……。大丈夫ですか?」

「平気です。花が咲いているなんて気づきませんでした」

「ハマヒルガオです。この一ヶ月でずいぶん咲いたから、スケッチをしたくて」

 男性ははにかむように笑い、またぺこりと頭を下げた。腰が低くて、優しそう。こちらに伸ばす腕は意外と太くて、筋肉もそれなりに──。

 風が吹いて、彼の麦わら帽子が髪からすべり落ちた。特徴的な茶色い髪と薄い色の瞳に、私は思わず声を上げてしまう。

「三木文也さん!テキスタイルデザイナーの……」

「え、僕をご存知なんですか」

「〇〇出版の営業なんです」

「……もしかして、五十嵐あやかさん?」

 驚いて口に手を当ててしまう。彼は──三木先生は、不思議な表情をした。美しい花に驚くような。
 大きな手に捕まり、立ち上がる。ハマヒルガオのつるが足首にするりと絡まった。

「……やっと会えた」

「ど、どうして?」

「探していました。貴女に、お礼を言いたくて」

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