海辺の花は咲き乱れ ~デザイナー男子の秘めた想いが、私を狂わせる~ (Page 2)
「僕の実家は書店なんです」
三木先生の家は小さな日本家屋だった。古民家を買いとり、作業場兼自宅としたのだそうだ。私は縁側に座って彼の話を聞いている。
「親に美大への進学を反対されて……ずっと、連絡をとっていませんでした。でも六年前のある日、父が電話をくれたんです。お前か載っている本を読んだと」
「六年前でしたら、『デザイン批評』の若手特集号でしょうか」
「その雑誌を取り扱ってほしいと営業に来たのが、五十嵐さんだったそうで……」
「まあ」
「この雑誌は必ず売れると熱心に話してくれたそうです。素晴らしい若手が載っているからと」
三木先生は熱心に語る。私は嬉しくて、涙ぐんでしまった。若手の頃のがむしゃらな営業が、こんなふうに報われるなんて。
「父は、進学に反対したことを謝ってくれました。感謝しています、五十嵐さん」
「あ……ありがとうございます、三木先生」
「……どうして泣くんですか?」
「あまり、感謝されることのない仕事ですから」
作家と触れ合うのは、編集の仕事。裏からひっそりと支えられればいいと思っていた。でも、こんなふうに言われたら。
三木先生は私の頬に手を伸ばし、涙をぬぐう。……薄い色をした目が見開かれる。
「あなたをずっと探していた。夢に見ました、きっと素敵な人だろうと」
「地味な女でしょう?」
「地味な花なんてない。僕はあなたに、ずっと恋をしていた……」
頬に触れた熱い指がゆっくりと下に降りる。熱い吐息を感じ、私は目を閉じた。
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