今宵、背徳を抱いて (Page 3)
私の手が、無意識に彼の胸元を掴んでいた。
鼓動の音が、今度は私の指先を震わせる。
「……だめ…ですよね」
自分の声が、少し震えていた。
でもその言葉を、藤原さんは否定しなかった。
代わりに、彼の手が私の頬に触れた。
優しく包み込むように、指先で髪を、そして頬を撫でる。
その仕草に、胸の奥の“何か”が壊れる音がした。
「……結衣…」
今度は敬語じゃなく、ただ名前を呼ばれた。
それだけで、もう理性なんて残っていなかった。
視線が交わる。
息が重なる。
世界が静止する。
気づけば、私の方から顔を近づけていた。
ほんの数センチの距離を、何度も確かめるように。
目を閉じることもできず、ただ彼の吐息に吸い寄せられる。
少しでも触れたら戻れない――そう分かっているのに、
それでも、もう止められなかった。
――2人の唇が溶け合う。
理性の境目が、音もなく崩れていく。
唇が離れても、彼の吐息が私の唇にかかっていた。
息を整えるたび、胸の奥の熱が広がっていく。
藤原さんの手がシャツの中へと伸びていく。指先が体温を確かめながら下着のホックへと延びていく。
もう、部下と上司の距離ではない。
それを一番分かっているのは、きっと彼自身だ。
低い声で私の耳元で囁く。
「……こんなふうにさせるなんて反則だよ。」
冗談のように聞こえるのに、その奥に熱があった。
責めるでも、拒むでもない。
ただ、心の奥を素直に吐き出したような声音。
私も、もう何も言えなかった。
胸の鼓動が彼の胸に当たって跳ね返る。
そのたびに、どちらの音か分からなくなる。
「結衣……」
名前を呼ばれた瞬間、息が止まった。
その声は、もう理性のものじゃなかった。
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