失恋には甘い快楽を (Page 2)
「楽しかったー! お姉さんスポーツ万能なんだね!」
「万能ってほどじゃないよ。優くんの方がボーリングの点よかったじゃん」
額に滲んだ汗を拭いながら、光里は笑う。
青年こと、凉が連れ出したのは怪しいお店なんかではなく、ボーリングやダーツなどの体を動かす場所ばかりだった。
どういう目的かはわからないが、先ほどまでの陰鬱な空気から一転、清々しさがあった。
朝焼けでぼやける公園のベンチに腰掛ける。
このままいれば日の出なんてあっという間に迎えるだろう。
今まで真面目に生きてきたため、夜遊びからの日の出なんて初めて見る気がする。
「ほら」
「あ、ありがとう」
いつの間に買ったのか、凉に缶コーヒーを手渡される。
凉の手にはいちごミルクが握られており、ペットボトルの蓋を開けながら光里の隣に座った。
互いに飲み物を口にしているため妙な沈黙が流れる。
あまりの居心地悪さに光里は口を開いた。
「き、聞かないの?」
「なにが?」
「…傷のこととか、一人でいることとか」
「聞かれたいの?」
「そういうわけじゃ…」
そう言いかけてやめる。
話を振るにしても今のはあまりにも聞いてほしそうにしすぎている。
聞かれないことを居心地が良いと感じつつ、話を聞いてほしいだなんて、とんだ矛盾だ。
光里は一度深呼吸すると、ゆっくり口を開いた。
「いや、うん。聞いてほしい、かな」
缶コーヒーの縁を指でなぞる。
今日あったことを思い出すだけで涙が出そうだった。
「結婚、考えてた相手がいるんだ。誠実な人で、同じ職場の人で。私が新人だった頃にお世話になった上司なんだけど、すごく頼れて、なんでもできて、かっこいい人なの」
初対面の印象は完璧だった。
身だしなみは整えられて清潔感があり、傲慢にならず、頼りやすい。
憧れであり、目標であり、そして、いつのまにが恋に落ちていた。
「向こうが転職するからって慌てて私から告白して、付き合って。職場は離れちゃったけど休日はほとんど必ず遊んでた。だからね、このままいけば結婚もって、思ってたし、そういう話も出てはいた」
二人で過ごす時間は今思い返しても幸せだった。
職場の雰囲気とは違い前髪を下ろす姿を、自分しか知らないと思うと胸が高鳴った。
こちらを思い遣って抱く手つきも、脳が沸騰しそうなほど愛おしかった。
「だけどね、その人にはもう婚約者がいて、来月結婚するんだって。私、泥棒猫なんて言われちゃった。盗むつもりなんてなかったのに。ただ好きなだけだったのに」
いつものように彼の家に遊びに行った。
するとそこには一人の女性が待ち構えており、目と目が合った瞬間罵詈雑言を放たれた。
仕舞いには本気のビンタを一発。
彼は後ろで気まずそうに目を逸らすだけで会話に入ろうともしない。
浮気された挙句見捨てられたのだと理解するのに時間が必要だった。
故に夜の街をただぶらぶらと、気の向くままに歩いていたのだ。
結果的に凉に出会えたのはよかったが、それでも捨てられたことに変わりはない。
光里は急に泣きたくなり、無理やりコーヒーを喉に滑らせた。
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