ヒギンスは哀れか

・作

夫が死に未亡人となった侯爵令嬢ヒギンス。そんなヒギンスの身分の高さに目をつけて、王付きの騎士・ケインが彼女を妻へと迎える。ケインに命じられ、寝室で一糸まとわぬ姿にされ、ヒギンスは絶望的な屈辱感にさらされていた。

蛇に睨まれた蛙というのはこういう心境か。

つまりは絶対的な絶望だ。

「脱いで脚を大きく開け。ヒギンス」

ヒギンスの夫になろうとする騎士・ケインは冷たく言い放った。

ヒギンスはケインを睨みつけた。

ケインの冷たい青い目は揺らぎもしない。

元々祝福された婚姻ではなかった。

先の戦争で大きな勲功を上げたケインが身分の高い妻を褒賞に欲した。

王はお気に入りの騎士とはいえ平民上がりのケインに自分の娘をくれるほどではなかった。

あてがわれたのが侯爵家の娘のヒギンスだ。

それも本当のところはヒギンスの妹のレベッカが嫁ぐはずであったが獣じみた戦鬼の嫁になるくらいなら死んだほうがましだとレベッカが本気で刃物を取り出して暴れたのでヒギンスが身代わりとなったのだ。

ヒギンスはその先の戦争で結ばれたばかりの夫を失っており、またその夫のことを愛していたのであとを追いたかったくらいだ。

ヒギンスはなかばやけな心持でこの婚礼を自傷行為の代償として受け入れた。

問題はケインのほうだ。

あまりにも勝手な理由で妻が代わったことに納得がいくものなのか、いやそのはずはない。

花の淡いつぼみのような娘レベッカから年増のヒギンスに妻が代わってしまったことにどんな気持ちでいるのものなのか。

婚儀が無事に終わったこと自体が奇跡だ。

こうやってふたり寝室に閉じこもったことによって、彼は儀礼的な建前を脱ぎ捨てることだろう。

事実、ヒギンスは今乱暴に召し物を脱がされ、一糸まとわぬ姿でケインの前に立たされている。

レベッカは拒絶したが、悪い男ではない。

額から頬にかけてひきつったような刀傷があるが、それでも整った顔立ちは損なわれていない。

むしろ男ぶりが増して凄みを感じるくらいだ。

「脚を開けと言ったはずだ。ヒギンス」

「やはりお怒りでしょうね。妹のようにまだ誰の手にも触れられていない新雪のような娘が望みでしたでしょうに」

カツカツと靴の音を鳴らしてケインが足早に近づいてくる。

平手打ちの一発でも食らうのではないかとヒギンスは覚悟し身構えた。

ケインの手が伸びヒギンスの顎をつかんだ。

ケインはヒギンスの顔を引き寄せ口づけた。

「んっう!」

急な接吻にヒギンスは目を見開いた。

ぬるりとねじ込まれた舌はヒギンスの歯列をなぞり、ヒギンスのからだに戦慄が走る。

「んん、おふっ」

ヒギンスはあらん力をふり絞ってケインから身をはなした。

ごほっとせき込みながらケインをにらみつける。

「いきなり無礼な!私のような傷ものには何をしてもかまわぬと?わたしにも矜持があります‼このようなふるまいを続けるつもりならどんなすべを使ってもこの無用の命を絶ってあなたから逃れて見せます」

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