ヒミツの会議室

・作

会社員、本田美月は後輩の後藤勇気の教育係。ドジっ子な後輩を頭を痛めながらも可愛がっていた。そんなある日、二人は電気系統トラブルで会議室に閉じ込められてしまう。救助を待つ中、ふたりきり、後藤が美月に告白してきて…。

「コピーしてきました!美月先輩!」

元気に後輩くんの後藤勇気が大量の紙束を持ったまま会議室に駆け込んでくる。
転ぶな、私がそう直感したとおりに彼はこけた。
紙束が、会議室の床に散らばる。

「あー!」

絶望的な悲鳴をあげる後藤くん。
後藤くんの教育係になって数ヶ月、このドジっ子っぷりには慣れた。

「…大丈夫?」
「は、はい」

後藤くんのそばにしゃがみ込み、書類を一緒に拾い集める。
後藤くんの視線がチラリと私のタイトスカートから伸びる足に向けられた。

「ん?何かついてた?」
「い、いいえ」

否定する後藤くんの耳が赤い。

「そう…」

どうも後藤くんは私のことが好きらしい。
視線でわかる。
けれどこれで思い違いだったら恥ずかしいってレベルじゃないから、放置している。

「よし、枚数あるかな?」
「あ、僕、数えながら配っておきます」
「うん」

後藤くんが会議室の机の上に書類を並べていく。
私はプロジェクターの準備をする。
しばらく無言で会議の準備を整えていると……。

突然、電気が消えた。

「きゃっ!?」
「先輩!?」

思わず身をすくめる。
後藤くんが近寄ってくる気配を感じる。

「…先輩?」

後藤くんの声が近い。

「だ、大丈夫…」

バツンと音がして、電気が戻った。

「よかった…」

ホッとしながら、周りを見渡す。
後藤くんが、思いのほか近くにいた。

「あっ…」
「あ、ごめんなさい…」

後藤くんが後ずさりして、会議室の壁にぶつかった。

「いてて」

後藤くんがぶつけた肘をさする。
そうしていると天井のスピーカーから音が鳴った。

『社内の皆様、先ほどの停電は電気系統のトラブルです。その影響で、各所の電気扉が閉じた状態になっています。復旧には一時間ほどかかる見込みです。ご迷惑をおかけします…』

「え」

私は会議室のドアに駆け寄った。
会議室のドアは社員証のカードキーで鍵を開け閉めできるようになっているが、内側からはフリーで開けられる。

ドアノブをひねるが、ひっかかりを感じる。
開かない。
会議室は外からは見えない作りになっている。

「…マジ?」
「こ、壊しましょうか」

後藤くんが近寄ってきた。
腕まくりをしている。

「いや、待てば開くらしいから、待とう。とりあえず課長に連絡入れとくね」
「はい…」

後藤くんはガチャガチャとドアノブを動かしていたけれど、やっぱり扉はびくともしなかった。

『後藤と会議室に閉じ込められました。問題はありませんので待機しています』
『了解。こちらもごたついていているので、今日の会議は中止する』
『わかりました。撤収の準備をします』

「後藤くん。片付けよう」
「あ、はい」

書類をまとめ、プロジェクターを片付けて、そして手持ち無沙汰になった。

「暇だねえ」
「そうですね…」

適当な椅子に横並びに腰掛ける。

「……」

スマホは持っているのでいくらでも時間つぶしはできるのだけれど、後藤くんの前でスマホで遊ぶのも気が引ける。

「あ、あの、俺がついてますから!」

後藤くんが大声を出した。

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