堕愛
夫のいる身で再会した幼馴染とのひととき 抑えきれない想いは背徳の夜に変わり 理性を裏切るほどの快楽が二人を結ぶ 熱に溺れる抱擁と吐息の甘い罠 愛か破滅か 絡み合う体はもう後戻りできず さらなる背徳の深みに堕ちていく 抗えぬ欲望に導かれ禁断の夜は果てなく続く。
駅前の雑踏の中、私の名前を呼ぶ声が不意に背後から届いた。
その瞬間、胸の奥を電流が走ったように、思わず足を止めて振り返る。
「……拓也?」
そこに立っていたのは、私が中学の頃からずっと心の奥で思い続けてきた幼馴染だった。
数えれば六年ぶりの再会。驚きと懐かしさがいっぺんに押し寄せ、息が詰まる。自然と左手が背中に隠れていく。薬指の指輪が、無意識に見られたくなかった。
拓也は以前よりも少し大人びた顔つきになっていた。けれど、笑ったときにほんのわずかに目尻が下がる癖はあの頃のまま。懐かしさが胸に込み上げ、心臓がぎゅっと縮み上がる。
「おう!……沙也香、お前さ……」
拓也が言いかけて、ふと口をつぐむ。
(……やばい、めっちゃ綺麗になってる)
その視線に気づき、頬が熱を帯びる。
「え? なに?」
「いや、何もないよ。……元気だったか?」
気取ったように平静を装っているのが分かった。けれど声の奥には、再会の喜びを抑えきれない揺らぎが混じっていた。
「うん……拓也こそ、元気だった? 高校に上がるときに引っ越しちゃってから、全然会えなかったよね」
自分でも驚くほど自然に笑みがこぼれた。長い時間が空いているのに、まるで昨日まで一緒に過ごしていたかのような距離感で話せる。心の奥で眠っていた甘酸っぱい記憶が、じわじわと蘇ってくる。
拓也は少し視線を伏せ、気まずそうに頭をかいた。
「悪かったな。……色々あってさ、大変だったんだよ。でも、会えてよかった」
そして突然、表情を変えた。
「なぁ沙也香、今日の夜、空いてる? 17時から軽く飲もう!」
予想もしなかった誘いに、息を呑む。
声は少し強引で、けれどその奥には、ずっと抑えてきた思いがにじんでいるのを感じた。
「……え、今夜?」
言葉を選ぶ前に、胸の奥が甘く疼き、頬に熱がのぼる。私は気づけば小さく頷いていた。
夫の存在が頭をかすめる。けれどその影は一瞬でかき消えた。
目の前にいるのは、かつての憧れであり、ずっと触れたかった存在。
その再会の衝撃と喜びが、理性をそっと塗りつぶしていく。
──そして、長い夜の幕が静かに上がろうとしていた。
店内は温かな照明に包まれ、木の香りがほのかに漂っていた。カウンター席に並んで腰を下ろすと、周囲のざわめきが逆に二人の距離を際立たせる。
グラスを合わせ、軽く乾杯。アルコールが喉を滑ると、張り詰めていた緊張が少し和らぐ。
「覚えてる? 中学の時、放課後に校庭で無駄に走り回ってたこと」
懐かしい記憶を切り出すと、拓也は吹き出した。
「覚えてる。お前、ほんと元気でさ。俺を無理やり巻き込んで走らせてた」
「ふふっ、そうだったね」
ーーグラスを重ねるたび、昔話から近況へ、そして取りとめのない会話へと流れていく。気づけば小一時間が過ぎ、テーブルには空いた皿が並び、二人の笑い声は自然と大きくなっていた。
笑い合う中で、気づけば無意識に拓也の腕へと手が伸びていた。軽く触れただけなのに、心臓が跳ねる。指先に伝わる体温が、ただの思い出話を危険な色に変えていく。
「……ちょっと酔っちゃったかも」
頬を赤らめて肩をすくめると、拓也は真剣な眼差しで私を見つめた。
その視線に息が詰まる。胸の奥を強く掴まれたようで、思わずグラスを持つ手が震えた。
居酒屋を出ると、夜風がほてった頬に心地よかった。街の灯りが滲んで見えるのは、酔いのせいだけじゃない。
ふらついた足取りで歩く私を、拓也が自然に支えてくれる。その腕に触れるたび、胸の奥で罪悪感と熱が入り混じる。
ーー夫がいるのに。頭のどこかで警鐘が鳴る。けれど、拓也の体温が近いほど、その声はかき消されていった。
「沙也香、大丈夫か?」
耳元で低く囁かれる声に、心臓が跳ねる。
「うん……大丈夫。少し酔っただけ」
そう答えながらも、体は拓也に預けたまま。離れることができない。
やがて視界に、小さなラブホテルの看板が浮かび上がった。煌々としたネオンが、背徳を照らし出す。
立ち止まるはずの足は動き続け、視線を逸らすはずの目も離れない。抗おうとする意思すら、すでに溶けていた。
二人の歩みはそのまま自然に向かっていた。ーー必然のように。
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