あなたの声が大好きだから (Page 2)
『レナのこと好きだけど、会えないんだ』
アプリ内で結婚してから、頑なに何度も言われたセリフだった。アプリを通したボイスチャットで、レナは何度もすばるの言葉にやきもきしたものだ。
レナとすばるが出会ったのは、「アバターラブ」という二次元のアバターキャラクターを介して男女が出会うマッチングアプリである。牛や馬を育成する農場を舞台に、男女が恋人になり、結婚生活を送ることができる。レナはすばるとマッチングし、キャラクター同士で結婚することができた。
優しいすばるは何度もレナのことを助けてくれて、そしてアプリ内でボイスチャットを繰り返した。アプリ内でもキャラを助けてくれるすばるに好感を抱くのに、そう時間はかからなかった。何度もデートに誘ったのに、彼は会いたがらない。
『多分俺を見たら、がっかりするよ』
「そんなことないよ!すばるとは本当に気が合ってるじゃない。私も救われてるよ」
最初はゲームを介して出会ったが、すばるはいつもレナの仕事の愚痴を聞いてくれた。社会人1年目で、女性ばかりの職場で男性と付き合う経験がないレナのことを、「俺がいるじゃん」と励ましてくれたすばる。
『レナは、俺の声が好きなんだよね。声好きって言われて嬉しいけど、顔を見て残念って言われること多いから、怖いんだよ』
「そんなこと、絶対ないよ…」
すばるは、自分の顔に強いコンプレックスがある。声がいいのは声優の卵だからだが、彼は飲食店のバイトを主としながら働いている。素人のレナからしたらとてもいい声をしているが、周りの人から言われることは「今どきの声優は見た目もよくないといけない」ということだそうだ。先輩や同期から顔のことを日々貶され、声優のオーディションも顔が理由で落とされれば、自信もなくなるだろう。
「私、声フェチだけど、すばるのこと嫌いにはならないよ…」
何度も何度も、レナは伝えた。そしてやっと、「あること」がキッカケで彼から会おうと提案してくれた。条件は「目隠しをすること」だった。
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