代わりでいいから抱いてよ
エリは完璧ワンマン社長ケンゴの秘書。彼のことを好きだが、彼にはすでに婚約者がいた。酔い潰れた彼はエリを婚約者と勘違いする。代わりでもいいから抱いてほしいエリは、積極的に彼に迫る。女性主導で責めたい女性に送る、甘々セックスの物語。
彼の部屋に入ったとき、優越感にひたることができた。タワマンの高層階に住む男の部屋は、ソファとテーブル、42インチのモニターがあるくらいの簡素なものであるが、リビングだけでこんなに広いなんて羨ましい。
「んぬ…っ」
エリは肩を貸している酔っ払いの男をソファに置いた。なるべく優しくしたかったが、長身でがっしりとした身体の彼を家まで抱え続けたのだから無理な話だ。ぼすりと手荒に置かれた男は、スーツ姿のままだらりと仰向けになる。端正な顔立ちのくせに、紅潮している顔はだらしがない。
「しゃちょー、おうちにつきましたよー」
「んんっ…もう無理…飲めない…」
完全に、酔いつぶれている。そもそもエリの上司であり、勤めている会社の社長でもある谷町ケンゴは酒に強くない。彼の秘書になった2年前から口酸っぱく、ケンゴ自身から「僕が酒を飲みすぎていたら止めて」と言われている。しかし今回、彼に無理にお酒を勧めて酔わせ、泥酔させたのは…エリの計画通りだ。
(さて、いただけるかしら?)
「ケンゴさーん」
頬をぱちぱちと叩く。赤くなっているが彼の肌は元々白い。それに、目をつぶっている今もまつげが多い。けれどオスライオンのように精悍な顔立ちは、取引先や女性社員から人気がある。30代前半にしてIT企業の社長として君臨している彼。
「好きですよ―」
エリは、2年前からケンゴのことが好きだった。200名以上の社員の前ではいつも強気で、弱音など一切吐かない完璧マン。
だが、秘書のエリの前では「株価下がったんだけど、株主に何て言われるかな」と落ち込んでいたり、「お酒飲むならオレンジジュース飲みたい」とか会食の前で愚痴ったり、母性をくすぐられるような可愛らしい部分を見せてきた。完璧なワンマン社長の仮面もいいが、まるで大きい子供みたいな彼が好きになったのだ。
(でも、告っても無理なのよね。名家出身の婚約者いるし、結婚秒読みだし)
完璧なケンゴには、恋人が当然のようにいる。2年前出会った段階から、ずっと婚約者にべた惚れだ。結納の日取りも決まっているし、結婚するまでもうすぐだろう。
(浮気するような人でもないし、だったら…)
エリは彼の首筋を撫でた。ん、と彼が小さく声をこぼす。指でまつげをさわっても起きないことを確認してから、エリはソファーに寝転がる彼に覆いかぶさるようにしてキスをする。長いエリの髪が彼にかからないよう、左手で髪をおさえた。
(無理やり、いただくしかないじゃない)
エリはぺろりとケンゴの唇を舐める。弾力がある男の唇からは、ジンの風味がする。啄むように口づけると、エリの気持ちが高まる。彼を好きになってから、彼を忘れたくていろんな男に抱かれた。けれど、やっぱり恋してやまない彼の唇は格別だ。これから彼をいただくという期待に、じゅくりと秘処が濡れていく。
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