生贄になった私ですが、二人の男性と結婚することになりました

・作

水害の起こった村で川の神への生贄として人生が終わってしまったはずの女性が、川の下流の集落で拾われて住人の妻にと望まれる。しかも相手は二人いて…。突然のことに驚いたけれど、二人ともタイプは違えど悪くないし、ここで幸せに暮らせるかもしれません。

「よ、よろしくお願いします…」

私は深々と頭を下げた。腹をくくるしかない、と思うのだがただよう甘い香りが思考と緊張を奪っていく。

私の目の前には二人の男性がいた。30代くらいのメガネをかけた男性と、それより10歳程度は若そうな男性だ。

少し手のついたごちそうとお酒が小さな小屋の上座に置かれたままだ。

「改まらなくていいよ、今更じゃないか。佳世子ちゃん」

若い方の男、哲二が笑いながら私のすぐ横へ座り直す。そしてその腕を私の肩に回した。

話は数日前に遡る。

*****

その年、私は生贄となった。
数年の日照りが続いた後、いきなりの長雨になった年のこと。川は氾濫し、田畑は水浸しとなっていた。
恐怖はあったが、仕方がなかったのだ。柱にくくりつけられた私は増水した川に流され、人生が終わった…はずだった。

「うぅん…」

気がつくとそこは見慣れない場所だった。質素なお堂のような建物の中だ。何か嗅ぎなれない甘い香りがしている。
私は濡れていたはずの着物ではなく新しい肌着の上に薄い羽織を着ていた。

「ここは?」

その問いに答える声はない。体を起こそうとすると、気だるさが襲ってくる。

「身体が重い…ってことは私、生きてるんだよね?」

「失礼します」

お堂の入り口から、青年の声がした。重そうなメガネをかけた彼は30代くらいだろうか。かごに入れた山菜と、大ぶりの木の枝を持っていた。

「ああ、目が覚めたんですね。良かった」

彼は私の目の前に座って穏やかな声で話しかけてきた。私は混乱して矢継ぎ早に疑問をぶつけていた。ここはどこなのか、何故自分がここにいるのかと。

「そうですね。あなたは死んでいません。死にかけていましたが、幸いに。ここはあなたの故郷より川の下流にある集落です」

ここまで話すと、青年は息をついて私の様子を伺った。

「せっかく生き延びたんですから、今後はここで暮らしましょうね」

「ここで暮らす?」

「故郷に戻ることもできないでしょう?生まれ変わったとでも思ってくださいね。悪いようにはしませんから」

家族に連絡を、とも一瞬思ったが無理だ。川の神様に捧げられたはずの私が生きていると知られたら、そっちのほうが困るはずだ。

(そうだ、故郷には帰れないんだ…)

実感すると涙がこぼれた。それから私は目の前の青年に軽く頭を下げた。

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