色魔に取り憑かれた私の長い一日

・作

たまたま弱っている女色魔に出会ってしまった女性が、一日を通して色魔の力を借りて好きな人と結ばれたり、それ以外のハプニングに巻き込まれたりという話。後半、肉体的な痛みを伴う表現がありますので、ご注意ください。

私は柚花(ゆはな)。普段はスーパーで調理員として働いている、これといった特徴もない20代後半になる女だ。

そんな私はある日の出勤前、駅前の噴水で倒れ込んでいる女性を見つけたので声をかけて駆け寄ったのだが、その顔をひと目見ればこの世のものでないのが分かった。全く血の気がなく、目や唇だけが濡れて光っていたが、よく見れば手脚も透けていた。

『あなた、私が見えるのね?お願い、助けてほしいの』

囁くその声は、どこかしっとりとしていた。その女性の幽霊らしきものは、なりゆきで私の職場まで着いてきてしまった。

*****

『私のことは、リリーって呼んで。いわゆる色魔よ。幽霊っていうより妖怪の方がイメージ近いかもね』

たまたま私以外誰もいなかったスーパーのロッカールームでその女性、ことリリーが話し始めた。

『あなたがいいな、って思っている男がいるなら手助けしてあげる。その代わり、さっさと身体を交えてほしいのよね。それが私の力になるの』

私に取り憑いたリリーは少し元気になったらしく、そんな自己紹介をしてきた。
私はリリーの正体については、その外見からただよう妙な艶っぽさから納得しつつも、話す内容には若干引いていた。

「そりゃ、いいなと思う男性はいるけど、そんないきなり…。それに彼は、亡くなった奥さんのことをまだ大事に思ってるみたいで」

私は職場のスーパーの店長のことを思い浮かべた。家族想いのとても優しい男性だ。40歳近いので年は離れているけど、優しい声がたまらない。

『あら、妻が生きてるよりはだいぶやりやすいわ。それ。ゆっくりひと呼吸分、その男と目を合わせてちょうだい。魅了してあげる』

そう言うとリリーはふわりと浮き上がって、私の顔の前にやってきた。そして目を覗き込んでくる。彼女の瞳の中に吸い込まれそうな感覚を覚えた。

「店長のことが好き、私のものにしたいの…」

出てきた言葉に私自身驚いた。ずっと口に出すことはなかった、私の本心だ。リリーは本当に不思議な力を使えるようだ。

『よーくわかったわ。私に任せてね』

リリーはとても魅力的に、ウィンクして見せた。

*****

その日の夕方。調理員である私と店長が顔を合わせる機会は毎日の挨拶程度でさほど多くない。けれどその日は退勤時に事務室に寄ったとき、たまたま店長は一人でパソコンに向かって発注か何かの作業をしていた。
私は珍しく二人きりになったことにドキリとしつつ、店長に挨拶すべく声をかけた。

「店長、お先に失礼しますね」

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