約束の夜、異形に濡らされ

・作

コーネリアは30歳の処女である。美しく聡明な彼女が男をその身に迎え入れなかったのにはワケがある。彼女はひたすら待っているのだ。あの日、彼女が出会った美しいひとならざるものを。その日は突然に来た。「それ」は現れた。あの日のままの姿で。コーネリアは異形に身を任せるのだった。

コーネリアは30歳で未婚の女だった。

*****

そのころは14,5歳で結婚するのが普通であった。

だがコーネリアはいまだ独り身であり、それは嘲笑の対象であった。

コーネリアは村一番の美人であった。

そのことを鼻にかけて嫁の貰い手がなかったのだと皆が笑ったものだ。

しかしコーネリアは我関せずといった風であった。

身内もおらず身一つ。

村の雑役で糊口をしのいでいる身でありながら堂々としていた。

なぜかというと彼女には「約束」があったからだ。

*****

それはコーネリアが13歳の時。

夕暮れの中見知らぬ男に森に引きずり込まれ犯されかけた。

男は膨らみかけの乳房を乱暴に揉みしだきながらコーネリアの脚を割った。

コーネリアは内心深く絶望していたが言い放った。

「犬にでもかまれたようなものよ。さっさとやって」

男の手が一瞬ひるんだ。

次の瞬間。

「気に入った」

と涼やかな声が聴こえ、それと同時に男がゴポリと血を吐いた。

男の胸には血にまみれた剣の切っ先が見えた。

コーネリアは血を浴びてもびくともしなかった。

それよりも汚い男の背後に立つ異形の存在に意識のすべてを持っていかれていた。

夕やみに光る銀の髪にぎらりときらめく金の瞳。

人間ではない。

男のからだを蹴りよけて、彼はコーネリアを引きずり立たせた。

「なんだ。おまえ。まだ赤子ではないか」

「赤子?私はもう13歳よ。あと2年もすればそれこそ赤ちゃんを産んでもおかしくない」

「そうしたいのか。人間の子よ」

「コーネリアよ」

コーネリアはブルブルと首を横に振った。

「人間の男は嫌い。人を見かけで判断して、結婚したら所有物のように扱うのよ。私はそうはなりたくない」

「ではどうなりたい」

「それが分かれば苦労はしません」

「口が立つな。コーネリア」

男がにやりと笑うと口元から長い犬歯がのぞいた。大理石のような磨かれた白い肌。

コーネリアは見ほれた。

「あなたがいいわ」

「ほう」

男は面白げに目を細めた。

「俺は子供は好かぬ。今のお前には食指が動かぬ。つまり時が来るまで待つことになるぞ」

「待ちます」

コーネリアは即答した。

「待てるというなら待ってみろ。一人干からびた老女になって、死ぬ間際かもしれんぞ」

男はやおらコーネリアの腰をかき抱く。

長い犬歯が首元に突き立てられて、コーネリアは痛みにあえいだ。

コーネリアの首の傷は長じても消えなかった。

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