私、高額バイトで目覚めちゃいました
日給10万円のアルバイトに採用された山本歌帆は、小説家・神宮寺美幸の自宅へと招かれる。登場人物のモデルに、というふれこみだったが、彼女は実は官能小説家だった。媚薬を盛られ、緊縛されてしまう歌帆。されるがまま女同士のそれに溺れるうちに、いつしか戸惑いは消えていき…
「個人のお宅に招かれてのアルバイトって緊張するな…」
いかにも高級な邸宅ばかりが建ち並ぶ、閑静な住宅街。気後れしながら歩いていた私の足が、重厚な門扉の前で止まった。
手元に控えた住所の番地や名字を、目の前の表札と見比べて何度も確認する。
「ご…ごめんください。モデルのアルバイトの件でお世話になります、山本歌帆と申します」
「お待ちくださいね、いま開けますから」
ほどなくして玄関に現れたのは、青緑色の着物をまとった品の良い女性だった。彼女の名前は神宮寺美幸さん。職業は小説家で、今日の私にとってはアルバイトの雇い主にあたる。
「あなたが応募してくださった方ね」
「本日は宜しくお願いします」
求人要項には『次作の小説のモデルになってくださる20代の女性』とあり、報酬はまさかの日給10万円。
簡単なweb面接を経て採用の知らせが届いた際は正直驚いたが、あまりに高額すぎるアルバイトは不審だから応募が少ないのかもしれないと思った。
「足元お気をつけてね。段差がありますから」
「は、はい…」
手入れの行き届いた立派な日本庭園を横目に、私は緊張の面持ちで美幸さんの後ろをついていった。
家屋の方は最近リフォームしたのだろうか、外壁や庭の造りに対して新しそうに見える。
「お茶どうぞ。お菓子もよかったら召し上がってね」
「いただきます」
奥の和室に通された私は、湯呑みを口元へと運びながら、ちらりと美幸さんを盗み見る。
一つにまとめた艶のある黒髪、すらりとした色白の綺麗な指先。長いまつ毛と口元のホクロがセクシーで、穏やかなトーンのハスキーボイスはとても魅惑的だった。
「まずは少しお話でもしましょうか」
改めて簡単な自己紹介をするところから始まって、他愛もない会話をいくつか交わした。
私自身のこと、好きなアーティストのこと、勤め先の仕事のこと。大学生のときに申し込んでしまったリボ払いの返済がかさんで、まとまったお金が必要な状況もやんわりと伝えた。
「奨学金の返済もあって…まだ社会人二年目で給料もそれほどではないですし」
そんな話をしているうちに、何だか体が熱いなと思い始めた。最初は緊張しているだけかと考えていたが、美幸さんの表情や仕草に妙にドキドキしてしまう。
既に正座を崩してはいたが、痺れてもいない足裏や内股を無意識のうちにもじもじとさせていた。
「歌帆ちゃん…あなた、とっても可愛いわね」
「え…あ…あの…私が、ですか? 表立って不細工と言われたことはないですが…むしろ普通すぎて、印象深くない方かと」
「容姿そのものだけじゃなくってね。私の心をくすぐる魅力がある、ってことよ」
美幸さんが私のすぐ傍までやってくる。ふわりと漂う芳香に、私の思考がトロリととろけた。
柔らかな感触、唇に重なる温かみ。美幸さんに抱きしめられてキスをしている。そう気付いた直後に私は押し倒されて、若草色の畳に身を横たえていた。
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