貴方に触れて、声を殺して (Page 5)

「え?」

不審そうな表情で私を見る棗君。

「本来私が止めなきゃいけないのに…自分の欲求を優先して…最後まで…」

言いながら、私は泣いてしまっていた。

「さゆりさんは、俺とセックスするのは嫌でしたか?」

「そうじゃないけど…貴方はまだ若いし、先輩として立場がないよ…」

「俺は、さゆりさんとちゃんと恋愛がしたいです。別れてすぐ、こんなこというのは卑怯だけど…」

予想外の棗君の言葉に、私は驚いて固まってしまった。

「すみません、でも、さゆりさんに釣り合うように俺、頑張りますから…傍にいさせて下さい…!」

そう言うと、ゆっくり抱きしめられた。

私は色々な感情が込み上げてきて、声を出して泣いてしまった。

落ち着くまで、ずっと彼は、背中をさすってくれていた。

「いつまで寝てんの?」

目が覚めるとミナが心配そうな顔で見ていた。

「あれ、ミナ…」

「もうお昼ですけど、どんだけ飲んだのあんた」

「あれ…服着てる」

「は?」

服を着て、元いた場所で目が覚めた。

「何寝ぼけてるの?サクラ達もう帰ったよ?」

「あ…そっか」

「とりあえず何か食べる?」

「う、うん」

あれは全て夢だったのかな?

そう思いながらスマホを確認する。

昨日みんなで交換した連絡先。

棗君からラインが来ていた。

「泣き疲れて寝ちゃってましたけど大丈夫でしたか?次は2人でお出掛けしましょう」

*****

「あんた達、人ん家でなにしてんのよ」

棗君との馴れ初めを素直に白状して謝罪すると、ミナは呆れて私を見た。

「ま、棗君良い子だし、大人っぽいからさゆりには合ってそう。良かったじゃん」

「うん…ミナ、色々ありがとうね」

「良いよ、それよりほら、お迎え来てるよ」

ニヤッと笑った彼女の目線の先には、私に手を振りながら駆け寄ってくる棗君がいた。

Fin.

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