貴方に触れて、声を殺して

・作

結婚を考えていた彼に誕生日間際に振られてしまったさゆり。泣きながら仲の良いミナに打ち明けると、彼女が誕生日会を開いてくれることに。楽しい時間を過ごし、幸せに浸りながら眠っていたら数時間後、違和感で目が覚めると、自分の上に後輩の棗(なつめ)が乗っていて…

「好きな人が出来たから別れて欲しい」

大好きな彼にそう言ってフラれた。

私の28歳の誕生日、数日前の出来事だった。

結婚すると思っていた。

ショックで眠れず、放心状態で出社した。

同期のミナの顔を見ると、一気に悲しみが溢れてしまった。

ギョッとする彼女の反応を無視して、泣きながら全てを打ち明けていた。

「最低!さゆりがいるのに目移りするようなバカな男は忘れなさい!」

頭を撫でながら、私を慰めてくれるミナの優しさに余計泣けてしまった。

「よしよし!誕生日は私と飲もう!せっかくだし、みんなも誘って楽しもうよ!」

「みんなって…?」

「今面倒見てる後輩がいるんだけどね、良い子だし、きっと楽しいよ!こういう事は時間が癒してくれるから!仕事終わり、私の家に集合ね!」

*****

誕生日当日。

毎年、一緒に祝ってくれた彼はもういない。

「忘れなきゃな…」

自分に言い聞かせて、仕事に向かった。

仕事終わり、ミナの貸りているマンションに向かう。

「さゆりお疲れ~!」

ミナが笑顔で迎えてくれた。

中に入ると、知らない3人が一斉に私の方を見た。

笑顔で会釈してくれる。

「うちの部署の後輩と、その同期達」

ミナが一人ずつ紹介してくれた。

女の子がミナの直属の後輩、サクラちゃん。

その同期の、陽翔(ハルヒ)君と棗(ナツメ)君。

三人ともまだ23歳。

新卒のフレッシュさがあった。

「さゆりさん、お誕生日おめでとうございます」

サクラちゃんが笑顔でお祝いしてくれた。

今日出会ったばかりなのに、友達みたいに祝ってくれて嬉しかった。

*****

ミナが準備してくれた料理と、サクラちゃん達が買ってきてくれたお酒とケーキでお祝いしてもらった。

ミナとサクラちゃんは早々に潰れて眠ってしまった。

皆にお酒を勧めながらハイペースで飲んでいた陽翔君もテーブルに突っ伏していた。

棗君と私だけがまだ起きている。

「お酒、強いんだね」

私が聞くと、彼は微笑んで目を伏せた。

「学生時代、サークルで鍛えられたので…。さゆりさんも、ペース早いのに平気そうですね」

「そんなことないよ、実は結構眠い」

私は笑いながらグラスを見つめた。

楽しかったな。

失恋を、数時間だけど忘れられた。

棗君と二人で話していた。

「さゆりさんは、ミナさんと仲良しなんですね」

「うん、同期だし付き合いも長いから」

「ミナさんに、さゆりさんを元気付けてあげてねって言われて…あの、失礼ですが、何かあったんですか?」

ミナ、嬉しいけど後輩に気を遣わせ過ぎ。

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