いって

・作

彼女から貰った平手打ちを噛みしめながら、ベランダで煙草を吹かしていると、風で本棚から本が一冊落ちた。本の中にはDVDが挟んであり、再生してみるとそれは元カノからのメッセージであった。メッセージの内容は随分トンチキで、「ストリップをする」という。バカバカしく思っていたおれだが、露出されてくる肌に次第に目が離せなくなる。

セックスする意味も、もうよくわからなくて。

おれはじんじんと痛む右頬をさすりながら、鼻から煙草の煙を逃した。

外ではカツカツとヒールを打ち鳴らして、非常階段を駆け下りる彼女の千花の激憤した足音が、反響して鳴り響く。

ちゃんと勃っていたし、イクってタイミングでイッたのになにが悪かったのか。なにが不満だったのか、問いただしても千花は唇を噛んでおれを睨むばかりで理由らしい理由は聞かせてくれない。

いいや、彼女の言い分をおれが理解できないだけかも。

……あーぁ、また怒らせちゃった。

紫煙が作る雲を眺めつつ、他人事のようにぼんやり考えていた。

今回は長いほうだったかな。

溜息の代わりに、煙草を吸い込む。

すぅ、と勢いよく吸い込んだ煙が気管に入り、盛大に咽せる。

ゴホゴホと激しく咳き込むと、狭い室内は灰色の煙ですぐいっぱいになった。酸素を求め、慌ててベランダの窓を開ける。カーテンを巻き上げて、強い風が手狭の1LDKに入り込んできた。

新鮮な空気に、おれの曇った肺まで洗われる。

煙草を持ったまま、ベランダへ出た。

今日は随分風が強いみたいだ。花散らしに髪まで遊ばせ、春の来訪を頬いっぱい感じとる。

空が赤らむ。朝焼けに目を細めて、下を向く。朝日は少し苦手だ。生気が溢れすぎていて眩しくて、目が痛い。

通り抜けるように、風が一房、髪を揺らした。

ガタ、と後ろで物音がした。

確認すべく部屋へ戻る。おれはコンクリートの上に煙草の灰をとんとんと落として、ベランダを閉めた。

*****

窓に近い本棚から一冊落ちたようだ。日に焼けて薄汚れた小汚い本。ほこりまみれだ。

日記のようだが、名前らしきものはない。おれは背表紙を撫でながら、首を傾げる。

本を開いたとき、バサッと何かが落ちた。

煙草を咥え、屈んで拾う。

雑誌の付録にでも付いていそうな、ぺらっぺらのビニールケースに入っているDVDだった。

DVDの白い表面には、掠れたへったくそな字で『黛蓮』おれの名前と一年前の日付。差出人の名前はやはり書かれていない。

なんだ?呪いのDVD?ホラー展開?

嘲笑するように鼻で笑って、そのDVDを意気揚々とPC用外付けプレイヤーに設置した。

来るならきてみろ、願ったり叶ったりだ。

置きっぱなしだったブラックコーヒーの空き缶に吸い殻を押し付け、ぐしゃっと火を消した。

*****

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