今日、終電逃しました

・作

終電を逃した、と言っておれの家へ転がり込んできたのは友人の莉子だった。どうもだいぶ酔っているようで、とりあえず適当に寝かしつけ、おれも寝るために風呂へ入ろうとしたが、なぜだか莉子までついてきてしまった。二人きり、狭いバスルーム、何も起こらないはずがなく…。

「終電を逃してしまいました」

「なるほどね」

深夜0時過ぎに部屋の扉をノックしてきたのは、友人の莉子だった。

*****

「うわっ、おまえ酒くさいけど」

千鳥足の莉子を、カバーを新調したばかりのローソファへなんとか座らせる。

「同窓会でした……」

「へー……。水いる?」

「いらないれす」

「富士の天然水だけど」

「……」

「バナジウムの天然水もあるけど」

ソファの背もたれに顔を押し付け、莉子は人間語ではない言葉を唸る。

おれはサイドボードに水の入ったペットボトルを置いて、大っぴらに脚を開く莉子の膝に綿毛布を掛けた。

「眠いの?」

「うん……」

鼻から長くため息を吐く。

「風呂は?入れる?髪、煙臭くなってて嫌だろうし、化粧も落としたいだろ」

肩を叩くが、莉子の返事はない。

「吐きそう?」

静かに莉子が首を振る。

「そ。吐くときはゴミ箱だと助かるけど、間に合わなそうなら、……このビニールか、フローリングの上でいいから」

莉子の隣にコンビニのビニール袋を口を広げて置く。

「もーおれは風呂入ってくるから、ベッド使って寝てていいよ。水は飲めよ」

カールの取れかけた莉子の髪をくしゃっと撫でる。

綿毛布を鼻先まで引っ張ってソファの上で身体を丸めたまま、くぐもった声で、はぁいと莉子が返事をした。

*****

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