40歳手前のひとり夜、指が蜜を呼ぶたびに架空の彼の声が聞こえる気がした
恋人を探して気づけば30代後半。よい出会いどころか体目的のお誘いしか来ない毎日。そんな私の夜は、いつからか自分の手が唯一の慰めになっていた。でも絶頂の後の虚しさだけは、どうしても埋められない。
「また今日も空振り…」
スマートフォンの画面を閉じて、私――桐島奈緒、38歳――はため息をついた。マッチングアプリのメッセージ欄には、また体の関係を求める文章が並んでいる。それか、食事の代わりにお金を渡すという、意味のわからない提案。どうしてこんな人ばかりがマッチングするんだろう。プロフィールに書いてある「真剣な出会いを求めています」という言葉は、まるで見えていないかのようだった。
こんなはずじゃなかった。
20代は仕事に夢中だった。同期の中でいちばん早く昇進したくて、毎日遅くまで残って資料を作り、土日も持ち帰った。30代に入ってからも、とにかく結果を出すことだけを考えて走り続けた。気づいたら部下が10人いて、それなりの肩書きも給料もついてきた。でも振り返ると、プライベートはすっからかんだった。
最後に誰かと付き合ったのは、32歳のとき。仕事が忙しくて、気づいたら自然消滅していた。別れてからもう6年が経っていた。恋愛なんて、仕事の合間にできるものだと思っていた。でも現実は違った。アラフォーの女がよい男性に出会える場所なんて、どこにもないみたいだった。
シャワーを浴びてリビングに戻り、ソファに倒れ込む。ボディークリームをゆっくりと塗りながら、ふと気がついた。最近、なんだかおかしい。体が、何かを求めている気がする。それを認識したのは、3ヶ月くらい前のことだった。通勤電車で隣に立った男性の体温を感じたとき、ドキッとした。それまでそんなこと、ほとんどなかったのに。腕が少し触れただけで、なんだかそわそわした。テレビで恋愛ドラマを見ていたら、キスシーンで変に意識した。誰かに触れたい、触れられたい。その感覚が、止まらなくなってきていた。
でも相手がいない。アプリには変な人しかいない。職場で気になる人なんていない…と思っていたのに、最近、ひとり気になる人が現れていた。同じ部署の三浦さん、35歳。一緒に仕事をするようになって2年になる。真面目で、気遣いができて、なによりいつも自分のことをさりげなくフォローしてくれていた。最近になって、なぜかその存在がやたらと気になってしまっていた。
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