40歳手前のひとり夜、指が蜜を呼ぶたびに架空の彼の声が聞こえる気がした (Page 4)
翌朝、出社すると、三浦さんが珍しく早くから席についていた。
「桐島さん、おはようございます。昨日の資料、仕上げてきました」
「ありがとう、助かる」
いつもと変わらないやり取りのはずなのに、今日は、なぜかその声が耳に残った。昨夜のことを思い出してしまって、耳まで熱くなった。まさか顔に出ていないよね、と心の中で念じる。
「桐島さん、最近少し疲れてますか?」
パソコンに向かいながら、彼が言った。
「え、そんなに顔に出てる?」
「なんとなく、ですよ。なにかあったら相談してください」
その言葉が、どうしてか胸に刺さった。こんなにそばにいたのに、私はぜんぜん気づいていなかった。ずっと気にかけてくれていたんだ、と思うと、じわりと胸が温かくなった。
「三浦さん、今日の帰り、少し話せる?」
自分でも驚くくらい、素直に言葉が出た。
「もちろんです」
彼は柔らかく笑った。その笑顔を見たとき、昨夜思い浮かべた「架空の三浦さん」とは別の、現実の三浦さんが目の前にいると気づいた。そしてそれは、想像よりもずっとずっと、温かかった。
Fin.
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