裏山の怪異と、大人の遊び
幼いころ、唯一の居場所だった裏山の秘密基地。そこにはいつも『ともだち』がいた。大人になり故郷に帰ったとき、再会した『ともだち』が人ならざるものだったことを知る。黒い影のような異形の存在を前に、アオイは「大人の遊びをしよう」とTシャツをたくしあげる。
私の出身は小さな村で、通っていた小学校には裏山がありました。
都会の人からすると考えられないでしょうが、同級生は私のほかに2人しかいませんでした。
その2人の仲はとてもよく、幼かった私はどこか居心地の悪さを感じていました。
私は居場所を求めて、毎日のように裏山に通っていました。
その裏山は熊がいると言われていて、誰も寄りつきませんでした。
私が勝手に秘密基地にしていたほら穴こそ、かつては熊の寝床だったのでしょう。命知らずな子どもでした。
——そして、あろうことか大人になった私は今、そのほら穴の中にいました。
「…暗いなぁ」
あのころ、私には『ともだち』がいました。
秘密基地に行けばいつでも『ともだち』はそこにいて、日が暮れるまで私と遊んでくれました。
でも、私はひとつも覚えていないのです。
その『ともだち』の名前も、年齢も、服装も、顔さえも。
「あれ…?」
記憶よりも広く深いほら穴の奥に進んでいくと、暗くぼんやりしたものが見えました。
何かの影。最初はそう思いました。
でも、そうではなく——それは、その黒いものは、影そのものでした。
「うそ…」
輪郭が曖昧な黒い影が、じっとうずくまっているのです。
明らかに人間ではありません。そもそも、生物かどうかもわかりません。
不思議と怖くはありませんでした。
むしろ、懐かしさがこみあげてきました。
「あなた…だよね」
返事は返ってきません。
ただ、呼吸のような音だけがかすかに聞こえてきました。
「ずっとここにいたの…?」
中学生になり、近隣の小学校からも人が集まり、仲の良い友達ができたころには、私はすっかり忘れていました。
裏山の秘密基地のことも、あんなに遊んだ『ともだち』のことも。
「私のこと、覚えてる?」
呼吸音が止み、数拍置いて獣のうめき声のような音が聞こえました。
聞き取れないけれど、それが私の名前を呼ぶ声であることが私にはわかりました。
それが、どうしようもなく愛しくなってしまいました。
「大人になるまで忘れててごめんね…」
私はTシャツをたくしあげ、影に言いました。
「そう…私、大人になったんだ。だから、今日は大人の遊びをしようと思ってここに来たの」
うずくまっていた影が立ち上がり、私に近づきました。
立ち上がると想像以上に大きく、一瞬たじろいでしまいましたが、私はブラのホックを外し胸をさらけ出しました。
ひんやりとした空気が肌に触れ、なんとなく恥ずかしくなってしまいました。
影は私の胸に顔…と思われる部分を近づけました。
欲情、というより肌を直接見せたのは初めてなので、ただもの珍しかったのでしょう。
「やわらかいよ、触ってみて」
影は数秒ほど迷った様子でしたが、おずおずと私の胸に手を伸ばしました。
影が触れた場所にもまた影が落ち、真っ黒で何も見えず、ただ触れている感覚だけがありました。
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