温泉旅館、夜の帳が下りたあと

・作

人妻と年下の新入社員が、旅館の夜に堕ちていく。浴衣、温泉、ひとつの部屋、そして我慢していた欲望。背徳感と快感が交差する一夜の中で、ふたりはすべてを忘れて溶け合っていく。「してはいけない」と知りながらも抗えない、心と身体の叫びを丁寧に描いた、大人のための一作です。

社員旅行の夜、温泉旅館の静けさの中。

浴衣を羽織り、湯上がりの熱がまだ体に残るまま、私はひとり部屋で晩酌をしていた。

夫からのメッセージには「楽しんでね」の一言。

その優しさすら、どこか遠く感じるのは——きっと、目の前にいないせい。

グラスの中の焼酎をくるりと回していたそのとき、ふいに部屋のドアがノックされた。

「…藤原さん?」

声の主は、今年入社したばかりの新入社員佐久間くんだった。

まだあどけなさの残る顔立ちに、時々ドキリとさせられる。

でも、まさか今、ここに来るなんて思ってもみなかった。

「部屋、間違えました」

「でも…藤原さんの声がしたから…つい、ノックしてしまって」

言い訳のような、その言い方がなんだか可愛くて、私はつい笑ってしまった。

「少しだけよ」と言って、部屋に招き入れた自分が——そのとき、少し酔っていたことにしたかった。

「浴衣、すごく似合ってます。…色っぽいです」

その一言に、息が止まった。

まっすぐすぎる瞳で、そんなことを言うから。

「…お酒、飲む?」

「飲めます。けど、…藤原さんに酔ってるかもしれない」

冗談まじりのようなその言葉は、やけに静かに響いた。

グラスを渡したとき、指先がふれて、思わず目をそらしてしまう。

ふたりの距離が、じわじわと縮まっていくのがわかった。

公開日:

感想・レビュー

1件のレビュー

温泉旅館、夜の帳が下りたあとのレビュー一覧

  • 昭和ですね

    浴衣や畳は
    懐かしく好みが有ります
    もう少し長いお話を希望します
    想像力が刺激され良かったです

    3

    亜季 さん 2025年9月26日

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