私の執事は私の犬で、私の大好きな人

・作

私に仕えてる執事は忠実な犬。けれど私から与えられるのを受け取るばかりで、自分から求めてこようとはしない。何年一緒にいるとおもっているの。…いいわ。あなたが私のものだってこと、思い知らせてやるんだから。

「矢野。ほら、舐めなさいな」

自室のソファーに腰かけ、その下でひざまずいている執事に差し出した。

着込んだドレスと同じ色。深紅のハイヒールに彩られた足先を。

「はい。桜子お嬢様」

私の執事…矢野拓己は恭しく一礼するとぷちん、と音を立てストラップを外し、そっと右足のハイヒールをふかふかの絨毯の上に置いた。続いて左足のも。

両足とも脱がされ、開放感で軽くなった足に矢野が舌を這わせる。薄いストッキングの上から。

「んっ…す、ストッキングごと、なんて…この、ヘンタイ…犬っ…!」

「はい。自分はお嬢様の犬ですから」

ぴちゃ、ぴちゃ…矢野は私の足先全て、指の一本一本。全てを舐めまわし、全ての指を口の中にしゃぶり入れる。

「ね、ねえ。どうかしら? 私の足は」

「はい。それは」ちゅっと音を立て、矢野は咥えていた私の指を開放した。

「とても美味です。お嬢様」透明な糸を口の端から垂らし、矢野はにっこりと笑った。

…そんな顔で笑うんじゃないわよ。

どきどきする気持ちを押し殺しながら、精いっぱい高飛車にいってみせる。

「ええ、そうでしょうとも。犬にとっては、ご主人様の味が一番よね? 私に近づく不埒な男どもを追い払ってくれたお礼よ。堪能しなさいな」

「ありがとうございます。ですがお嬢様、いくら彼らの態度が気に入らなかったとはいえ、自分が手を出すなど本来はあってはないのですが」

自分のタキシードから白いチーフを取り出し、私の濡れた足先を丁寧に拭きながら矢野がいう。

「あなたは私のボディガードでもあるでしょう? 嫌がってる私を見て排除してくれたのだから、満点だわ」

「ですが今宵のお嬢様の誕生日パーティは、許嫁候補の選定も兼ねていたのです。お嬢様ももう、20歳ですし。高屋敷家の息女であるお嬢様に相応しい方を選ぶよう、旦那様からも仰せつかっておりました」

「で? 酔って、下卑た声をかけてくる男が私に相応しいと?」

さっきの男どもが私にかけてきた言葉を思い出すと、むかむかする。だから矢野を連れて、さっさと自室に引き返したのだけど。

「いいえ。あんな下衆は排除して正解でした。…全て自分の判断でしたことです。なので、お叱りを受けるのは自分だけでよいかと」

矢野は両方の足先を拭き終え、そっと絨毯の上に乗せた。見ると、トウの部分が少し破れていた。

「失礼いたしました。お嬢様」

矢野が少しだけ困った顔をして、頭を下げた。

こういう顔は変わってない。六つ年上のこの男は、私が生まれたときから傍にいてくれている。

だからよく知っている。矢野の…拓己のことなら、なんでも。だから今日が。

「…ねえ。私が忘れてると思っている? 今日が、あなたの誕生日でもあることを」

「ああ。そうでしたか。自分にとってはお嬢様の誕生日のほうが重要度が高いので、失念しておりました」

「ほしいものはない? その、私があげられるものなら…なんでも」

「…お気持ちだけで十分です。ご褒美ならもう、いただきましたし」

いつも、あなたはそういうのね。こうして、私に触れるようになってもう何度? 

最初は私からいいだした。けれどあなたは、私から与えられるのを享受するだけで、それ以外は求めてこない。

…ずっと、一緒にいるのに。

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