かわいい彼女の作り方

・作

私の彼氏は年下の部下。ちょっと気弱だけど優しくて、私を大好きでいてくれる。なのに私は仕事中、彼に優しくできない。せめて二人のときだけは、優しい…可愛い彼女になりたいのに。どうしたらなれるの?

「…全っ然っダメ!」

差し出された新商品の企画書に目を通してから、机の上にそれを放った。

「あの、どこがダメ…でしたか? 高里主任」

おずおずと、私を見下ろす芦原爽くん。

今年入社したばかりの彼は、仕事に関してはちょっと気弱なところがある。

自信のある企画なら、もっと強く推せばいいのに。

「どこが? 言わなきゃわからない? ターゲット層。それに基づいたコンセプト、デザイン。それはいいわ。でも!」
 
びしっ! と彼を指差す。

「これじゃなきゃいけないっていう、意気込み。それがあなたからは感じられないのよ。芦原くん」

「…意気込み?」

「納得いかない? 確かに、企画はよく出来ているものね。でもね、意気込みってのは根性論や精神論じゃない。もっとフィジカルなものよ。人の心に働きかけ、その人の心を変えさせてしまうもの。あなたの企画にそれだけの力があるかしら」

そういうと彼は黙り「練り直します」と言って、企画書を手に下がってしまった。

周りからは「高里主任こわーい」とか「美人なのに可愛くねーの。あんなんだから彼氏がいないんだよな」とかいう、ひそひそ声が聞こえてくる。

…聞こえてるってば。声の主たちをにらみつけるとみんな目をそらし、仕事に戻っていった。

可愛くない、か。そんなの、私が一番良くわかってる。だって。

*****

「ごめん、ごめんね爽くーん! みんなの前で叱ったりしてー!!」

エプロン姿で鍋の番をしている爽くんに抱きついて、背中に顔をこすりつける。

「梓さん…抱きつかれるのは全然いいんですが、今は」

「やっぱり邪魔だと思ってる! 爽くんのバカー!!」

「いや、そうじゃなくて。この前も料理中に甘えてきて、おかげで焦がしちゃったじゃないですか」

「そう…だけど」

しぶしぶ離れると、爽くんがちょっと笑った。

「座っていい子にしてて下さい。もうすぐ出来るんで」

大人しくダイニングに行ってテーブルに腰を下ろし、続き間のキッチンに立ってる爽くんを見る。

料理してる爽くんは楽しそう。味見をしながら、にっこりと笑ったりしてる。

美味しくできてるんだろう。もっとも、爽くんの料理の腕なら当然だろうけど。

そんな姿を見ながら、ぼんやり考える。仕事中もああだったらいいのに。

それとも私が悪いんだろうか。私が怖い…可愛くない上司だから?

可愛くないのは知ってる。だって彼氏に…爽くんに優しくできない。仕事中は。

いくら後で謝ったって、こんなんじゃいつか嫌われるかな。…六つも年上だし。

どうやったら爽くんの、可愛い彼女になれるかな。

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