両片想いを知らなかった私をお仕置きする、強気な幼馴染の彼

・作

大人気シンガーソングライター・宮前力哉(みやまえりきや)の幼馴染である百瀬佳乃(ももせよしの)は、子供の頃から彼に片想いしていた。しかし、力哉が海外に渡ると聞き、佳乃は自分の恋を諦める決心をする。夢を追いかけようと努力する力哉の前から、少しずつ距離を離そうとする佳乃だが、ある日彼に強引に迫られて!?

「え、何いってんの?」

私の目の前で不思議そうな顔をするのは、幼馴染の宮前力哉くんだ。

二十歳でプロのミュージシャンとして活躍するようになって、最近では日本のトップチャートで彼の名前を見ない日はない。

その注目度は国内に留まらず、先日ついに海外進出を視野に入れたオファーが来たらしい。

彼はオファーを受け入れ、武者修行も兼ねて海外移住を決めたという。

そんな話を幼馴染の特権で直接本人から聞かせてもらった私は「すごいね、いつ行くの?」と、ごく普通に尋ねたつもりだ。お見送りに行きたいという旨と、これからも応援してるという言葉も添えて。

彼が海外に行ってしまうことがショックで、顔は多少引きつってたかもしれないけれど――。
だが、力哉くんが気にしたのは全然違うところだった。

「お見送りって、佳乃も来るだろ?あ、でもまだ大学があるのか…佳乃の学校、留学制度とかあるっけ。いや、別に卒業してから来てもらってもいいんだけど、俺としてはなるべく早く佳乃にも来てほしいっていうか…」

「まってまって!え、あの、私さすがにアメリカまでは行かないよ?パスポート持ってないし」

「は?」

どうにも噛み合わない話に思わず待ったをかけると、私以上に力哉くんは怪訝(けげん)な顔をした。

いや、そんな顔されても。そもそも、なんで私もアメリカに行くなんて発想になったんだろう。

確かに、日本国内での彼のライブは必ず行っているけど、それは幼馴染だからという以上に彼の歌のファンだからで…あれ?そうするとやっぱりアメリカのライブにも行くべきかな。

少し悩んで、いやここが正念場だと私は覚悟を決めた。

「力哉くんのことはずっと応援してる。でも、今までみたいな頻度ではライブには行けなくなると思う。飛行機代も高いだろうし…でも、アルバイトや就職してお金を貯めて、絶対いつかアメリカにも応援しに行くからね!」

「いや、まって佳乃。何その熱心なファンみたいな決意表明」

目の前で今にも頭を抱えだしそうな力哉くんに、私は眉間に皺を寄せた。

「何って…私、熱心なファンだもん。幼馴染だけど、力哉くんのファンでもあるって、さすがに知ってるでしょう?」

「ファンってことは知ってるけど、そういう話じゃなくて!」

さすがはプロ。ものすごい肺活量で大声を出されて、私はびくりと身をすくませた。

しかし、構わずに力哉くんは叫ぶ。

「結婚を前提に付き合ってんだから、佳乃にも来てもらわなきゃ困るっつってんの!…もしかして、アメリカに行きたくないからって、高度な嫌味をいってるつもり?」

「え、まって!」

二度目の待ったは、さっきよりも大きな声になった。

ありえない台詞に、私は目を剥いて訊く。

「付き合ってるって…誰と誰が?」

「はァ!?」

力哉くんの声も、さっきよりもさらに大きなモノになっていた。

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