君の胸に咲いた花を摘んであげる (Page 2)

いつまで飲んでいただろうか。

もう終電もない時間になって、まだ帰りたくないとごねる明日香を店から引っ張りだした頃には、もう深夜の二時になっていた。

「明日香、家まで送るから。しっかり歩いて」
「んん…むり、瑞樹おんぶしてー…」

少ししか飲んでいないはずの明日香は、顔を真っ赤にして呂律の回らない舌でそう呟く。

足元もふらふらとおぼつかない様子だ。

「もう…しょうがないな」
 
諦めてため息をついた瑞樹は、明日香の体を背負い込んでまた歩きだす。
 
「んふふ…瑞樹の匂いがする」
 
しばらく歩いたところで後ろからそんな言葉が聞こえてきて、瑞樹はぴたりと足を止めた。
 
「…明日香、今日はホテルに泊まろっか」
「ん?うん、いいよお」
 
彼女の安易な同意を受けて、瑞樹は歩いてきた道を戻った。
 

*****

 
 
ホテルの一室にたどり着いた瑞樹は、明日香をそっとベッドに寝かせてその体を見下ろした。
 
火照った頬に、半開きの唇。
 
やんわりと閉じられた瞼がふと開かれて、ばちりと目が合った。
 
「…瑞樹」
「うん?」
「…水が飲みたい」
 
明日香の要望に、瑞樹は備え付けの冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。
 
それのふたを開けて明日香に差し出そうとしたところで、瑞樹は一瞬思考を巡らせ明日香に覆い被さった。
 
明日香はまだぼうっと瑞樹を見上げたまま、何もいわずに待っている。
 
ああ、このまま彼女を食べてしまいたい。
 
これまで何度も、明日香を自分のものにしたいと思ったことがあった。

それでも、体の弱い彼女を案じて決して手を出すことはなかったし、想いを伝えることもしなかった。
 
生きるだけで精一杯の彼女に、そんなことで負担をかけたくなかった。
 
でも今は、あの頃の弱いだけの明日香ではない。
 
ペットボトルの中身をあおいで、瑞樹はそっと明日香に顔を近付ける。
 
熱く、柔らかい唇に触れたとき、明日香は鼻から抜けるような小さな声を漏らして瞼を閉じた。
 
少しずつ水を明日香の口内に注いでいく。
 
そのたび、彼女はこくん、と音を立てて健気に水を飲み込んだ。
 
まるで自分を受け入れられたような感覚に陥って、瑞樹の視界がくらりと揺れた。
 
「…ん」
 
一度顔を離すと、明日香はさきほどよりもとろんとした目で瑞樹を見つめる。
 
水に濡れた唇がつやつやと妖艶に輝いていて、そのさまに見入ってしまいそうだ。
 
「瑞樹……もっと」
 
その言葉で、瑞樹の中の何かが弾け飛んだ。
 
かぶりつくように明日香に口付け、舌で歯を割って口内を蹂躙する。
 
酔っているにしても拒絶するような素振りも見せず、明日香は瑞樹の首に腕を回し、その体を抱き寄せた。
 
何年もの間、こうして彼女に触れたかったのだ。
 
理性なんてそんなもの、もう頭の片隅にもない。
 
枕元に置かれたペットボトルの水が、きらきらとシャンデリアの光を反射していた。
 

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